千二十六話 普通は興味なし
（あいつら……これからどうするんだろうなぁ）
緊急で冒険者ギルドから頼まれたヴェノレイクの討伐を頼まれたソウスケたちは、下手に騒がれたくないということもあって、翌日には再びドラゴニックバレーを目指し、出発していた。
「ソウスケさん、もしや彼らの事を考えているのですか？」
「ん？ まぁ……ちょっとな。悪い事をしたとは思ってないけど、目標を失ったあいつらはこれから先、どうするんだろうなと思ってな」
「普通に冒険者として生き続けるのではないのか？」
冒険者として生き続ける。
ザハークの言葉通りと思うのが普通だが、ソウスケたちは結果として彼らの復讐の炎を勝手に消してしまった。
ある意味、消化不良という形にしてしまった。
「弱くはないから、リスク管理をしっかりすれば、冒険者として生き続けられるだろうけど……復讐の炎？ の行き場をどうすれば良いのか解らなくなってるんじゃないかって思って」
「……ソウスケさんは難しい事を考えるな」
「そうか？ 単純に特にすることもないから暇ってだけなんだけどな」
相変わらず三人は臨時で他の冒険者とパーティーを組むことはなく、三人だけで街から街へと移動していた。
「………………あり得ない、でしょうね」
「何がだ、ミレアナ」
「万が一、ソウスケさんに報復するのではと思いましたが、さすがにそこまでバカではないだろうと」
「別に俺は……何もしてないとは言えないか。でも、ちょっと無茶苦茶理論過ぎるし、ミレアナの言う通りあいつらもそんなにバカじゃないだろ」
復讐の機会を奪ったソウスケたちに報復をする。
機会を奪われたことに怒りを感じるのは仕方ないにしても、彼らはミレアナが一人でヴェノレイクを倒したという事実を知ってしまっている。
戦力差という面を考えても、彼らがこれからどれだけの修羅場を潜り抜けたとしても……その間、ソウスケたちも緩やかではあるが、実力を上げていく。
それら考えれば、本当に意味のない行動理由と言える。
「でも、生きる目標的なものを失った訳だろ。喪失感が半端ではないんじゃないかと思ってな」
「しかし、ソウスケさんはあいつらに色々と伝えていただろう。あいつらが二人の言う通り、バカの中のバカでなければ、廃人？ にはならないのではないか」
ソウスケはあの若造たちに、今のお前たちがヴェノレイクに挑めば、ほぼほぼ死ぬと…………万が一、奇跡的に勝利を掴んだとしても、いつも隣にいた人物がいなくなる事を伝えた。
普通が、普通ではなくなる。
モンスターという正真正銘の怪物を相手にする職業に就いている時点で、色々と普通ではないが……それでも、ソウスケが若造たちに伝えた言葉は……確かにブレーキを与えた。
「俺としては、あいつらがこの先どうなろうと、知ったことではないがな」
「ふふ……それが普通の反応だろうな」
ザハークがモンスターだから冷たいのではない。
正直なところ、ミレアナにとってもあの若造たちが今後どうなろうと、どうでも良いという気持ちの方が強い。
だが、ソウスケにとっては適当に見過ごせないところがあった。
「二人は俺の事を優しい優しいって言うけど、別にそんな事はない。ただ色々と……思うところ、感じるところがあるだけだよ」
元の世界で死んでこの世界に来た、転生者ではないが、それに近い人物。
それまで何者でもなかったか……だが、いきなり大きな力を余裕を手に入れたことで、視野が広がった。
「そう思う、感じるところが優しさなのではないですか？」
「ミレアナの言う通りだな。とはいえ、ソウスケさんはなるべく同業者とは仲良くなりたいのだったか？ それが目標なら、話し合いで物事を解決出来るのに越したことはないのだろうな」
ザハークとしては自分を嘗めている者、ソウスケやミレアナを見下す者はぶん殴りたいところだが、それでも主人の邪魔をしたい訳ではなかった。
とはいえ……やはりどんな世界にも、可愛くないバカというのはどこにでも存在する。
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