千二十五話 隣から消えるかも

「お前らの中に、恩人の仇を討てて死ねぬなら本望だ、みたいな頭おかしい考えを持ってる奴がいるのかどうかは知らないけど、一回じっくり想像してみたらどうだ。仮に自分たちがヴェノレイクを討伐出来ても、今まで隣にいるのが当たり前だった人物がいなくなる光景を」


そろそろミレアナとヴェノレイクの戦いも終盤になるため、これ以上考えるだけ無駄かもしれない。


しかし……彼等の表情を見る限り、現実を突き付けた甲斐があると思えたソウスケ。


(どうやら、ようやく落ち着いて物事を考えられるようになったみたいだな。仮に俺が死んでも恩人の仇を討てるならって覚悟を持ってる奴がいても、残された奴らの気持ちとか考えれば、絶対に踏みとどまる筈だ)


彼等の中には、その覚悟を持っている者は……いた。

だが、今まで隣にいるのが当たり前だった人物が居なくなる、というソウスケの言葉を聞き…………初めて顔から怒りが失せ、焦りや悲しみが浮かぶ。


「色々とイメージ出来たみたいだな。さっきも言ったけど、俺は大切な人を失ったことはないから、下手な事は言えない。でも、今のお前たちがヴェノレイクに挑めば……ほぼ間違いなく全滅する。仮に倒せたとしても、大半のメンバーが死ぬ」


今回は特に濁さず、結果として無駄死にするだけだと伝えた。


「っと、どうやら向こうも終わったみたいだな」


戦闘音が聞こえなくなった方に顔を向けると、ミレアナが普段と変わらない様子で立っており、直ぐ近くに毒を撒き散らしていたヴェノレイクが倒れていた。


「ソウスケさん、討伐が終わりました」


「みたいだな。悪いな、予定も無しに一人で任せてしまって」


下手に暴走しかけていた若造たちが割り込まないように見張っていたソウスケ。

ザハークまで必要だったかという疑問は浮かぶか、ミレアナとしてはヴェノレイクの様な物理的な面以外で危険度の高いモンスターとの戦闘は良い経験になったと感じていた。


「悪くない戦いでした。正直なところ、私たちのうち誰か一人が戦えば済む相手です。ただ、これ程のレベルのドラゴンがごろごろ居るとなると、やはりドラゴニックバレーは非常に探索する危険度が高そうですね」


「それでこそ、探索のし甲斐があるってものだろ」


「「「「っ!!??」」」」


若造たちは二人の会話に驚きを隠せなかった。


「お、お前ら……三人で、ドラゴニックバレーに挑む、つもりなのかよ」


「あぁ、その予定だな。三人ともBランクのドラゴンを一人で討伐出来るだけの実力があるんだ。別に無理な話じゃないだろ」


グレンゼブル帝国で生まれ、冒険者を志す者であれば、一度はそこに生息するドラゴンを討伐し、ドラゴンスレイヤーになることを夢見る。


しかし実際に冒険者として活動を始めれば、その目標に……夢に辿り着くまで、それだけの苦労があるのか……現実を突き付けられ、飛び抜けたルーキーでもなければ子供の頃の夢を目標として語る事など出来ない。


「……っ、お前らは……マジで、なんなんだよ」


若造たちのリーダーの言葉に、怒りはなかった。

ただ純粋な疑問と困惑、そして小さな嫉妬が含まれていた。


「この国の出身じゃない冒険者だよ。因みに、俺とミレアナはBランクの冒険者だ。説明はこれぐらいで良いだろ? それじゃ、俺達は街に戻る。ここは毒が散らかってるから、反省するにしても別の場所に移動した方が良いぞ」


復讐という目的は否定しないが、蛮勇としか言えない作戦、戦闘力しかないなら無謀な突撃になってしまう。


といった伝えたい事は伝えられたため、ソウスケはそれ以上彼らに構うことはなく、街へと戻ってヴェノレイクの討伐を伝えた。


ついでに自分たちに討伐依頼を頼んできた男性ギルド職員たちに、若造たちの件を伝えると、ものすごい勢いで頭を下げられ、謝罪の言葉を伝えられた。

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