千二十四話 誰かが伝えないと

「ッ、く……そが」


「ん? もしかして……罅でも入ったか?」


ソウスケの予想通り、数十メートル以上投げ飛ばされた青年は着地こそ成功したが、その衝撃で脚の骨にヒビが入った。


「でも、ポーションを飲めばそれぐらい回復するだろ」


ランクが低いポーションであっても、骨の罅程度であれば治せる。

そもそも向こうから仕掛けてきたということもあり、ソウスケは当然であり、ザハークも罪悪感など一切ない。


「とりあえず、今ので解っただろ。俺たちと戦り合うだけ無駄だって。つか、訓練場とかそういう場所じゃないところで冒険者同士が争ったところで、メリットは一欠片もないだろ」


「んのっ……」


上から目線で語るんじゃねぇ!!!! 再度そう叫ぼうとする青年。


ただ……先程のやり取りから、ザハークという鬼人族に酷似してるオーガは、自分よりも……自分たちより強い。

つまり、自分たちより上のステージに立っているのは間違いなかった。


結果、自分たちが上から目線で語られるのも受け入れるしかない。

先程自分が吠えた内容を忘れるほどボケてはおらず、奥歯を嚙みしめることしか出来なかった。


「ザハークはオーガの希少種なんだけど、ランクは……とりあえずAか?」


「……そうだな。とりあえずそれで良いだろう」


これまで何度もAランクモンスターをソロで討伐してる事を考えると、それ以上と断定しても良いのだが……実際にその領域に達しているモンスターに遭遇したことはないため、二人ともそのランクは口にしなかった。


「あのヴェノレイクはザハークほど強くはない。けど、毒っていう超厄介な武器を持ってる。お前ら、あいつが扱う毒を無効化出来るマジックアイテムか、絶対に食らわないスピードとか持ってるのか? 持ってないだろ」


「だから、諦めろってのか」


「せめて準備しろって。お前らにとって、気持ちの強弱でどうにかなる相手じゃないだろ」


ソウスケは彼等のことを気に入った訳ではない。

ただ、ミレアナがヴェノレイクを倒すまで暇なので、現実を伝え続けようと思った。


「敵討ちだとしても、準備は大事だろ」


「その間に、あいつが逃げたらどうするんだよ!!!!」


ヴェノレイクは強者が多い場所から逃げてきた個体。

気の弱い個体ではあるが……言い換えれば、危機察知能力が高い。


これ以上滞在するのは危ないと感じれば、直ぐに別の場所に移る可能性は十分ある。


とはいえ、彼らがその危機になり得るかはまた別の話。


「それは仕方ないで済ませるしかないな。あのヴェノレイクがお前らの復讐に付き合う義理はないし」


「ッ!!!!!!!!!」


再び怒りが沸点を振り切り、大剣の柄に手が伸びた。


それでも……ザハークに先程あっさりと拳を受け止められ、無様に宙に放り投げられたイメージが浮かび、抜剣することはなく踏みとどまった。


だが、俺たちの気持ちを何も知らないくせに!!!! という怒りは消えない。


「お前みたいな流れ者に。俺たちの気持ちが解る訳ないだろって顔してるな」


「っ!?」


「確かに俺は知らない。そういった経験もしてない。だから慰める為に解るよ、なんて言葉は気軽に口に出せない。けど、お前たちより強いから、ヴェノレイクに挑んでも負けることは解る」


先程ザハークたちと話していた内容を……そのまま伝える。


わざわざ伝えるような関係ではないが、誰かが伝えなければ気付けないのも事実。


「敵討を討とうとして、復讐を果たそうとして……運良くヴェノレイクを倒せたとして、お前らの内誰かが死んで…………お前ら、後悔せずにその後生きられるのか?」


「「「「「っ!!!!」」」」


「ソウスケさん、もしやお前たちレベルが全員生き残れるのかと、はっきり伝えた方が良いんじゃないか」


ハッキリ過ぎるザハークの言葉に全員が拳を握る力を強めるも、動くことは……口を開いて吠えることも出来なかった。

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