千二十七話 そもそも望んでない
(クッ…………………ソめんどくせぇ)
ソウスケは現在、目の前で起きている状況に対し、心の底からめんどくさいと感じていた。
その理由は……とある貴族の令息、少年がザハークに一目惚れしてしまったからである。
「お前!! 私の従魔になるんだっ!!!!」
「…………」
そこら辺のオーガとは違い、喋ることが出来る希少種のザハーク。
しかし、困った顔をするだけで全く喋らない。
面倒な相手はとりあえずぶん殴りたいという思考を持つザハークだが、目の前の少年が明らかに貴族という、存在自体がそこそこ面倒な人物だと理解している。
そんな人物を殴ってしまえば、主人であるソウスケに迷惑を掛けてしまう解っているからこそ、困った顔をすることしかできない。
「私のとこに来れば、今よりも絶対に良い暮らしをさせてやれるぞ!!!」
(このガキは……伯爵家、もしくは侯爵家の令息、か?)
ソウスケは現在自分が訪れている街の名前、どういった領主が治めているのかなど、詳しく知らない。
ただ、活気は上の中といったところ。
街全体のレベルが高く……少年の護衛である騎士たちも、それなりのレベルであることが窺える。
(しかし、今よりも絶対に良い暮らしをさせてやる、ねぇ…………)
貴族とはこういった生き物だと理解はしている。
とはいえ、理解していても、やはり納得出来るかは別問題。
いくら相手が自分より子供とはいえ、ウザい事に変わりはなく……ソウスケは懐からある物を取り出し……それでお手玉を始めた。
「ソウスケさん?」
何をしているのだ? という疑問の目を向けるミレアナは、ソウスケが何を取り出したのかを確認し、何をしようとしているのか把握した。
「よ、っほ、っほ、ほいっと。さて…………俺の手元に、白金貨は何枚あるでしょう」
「「「っ!!!???」」」
貴族の少年だけではなく、護衛の騎士たちまで、白金貨という言葉に驚きを隠せなかった。
「正解は、十枚です。俺は見た目通り、まだ年齢は十代半ば頃なんだけど、これでもBランクの冒険者なんだよ。あっ、勿論こっちのパーティーメンバーもBランクなんだ」
エルフの女性(ハイ・エルフ)は解らなくもないが、目の前のギリ青年ほどにしか思えない者がBランクという事にも驚きを隠せない少年たち。
「今よりも良い暮らしをさせるてやるから、自分の従魔になれって言ってたよね? それ、いくらまで出せるの? まさか金貨数十枚とか、白金貨数枚とかの話じゃないよね。あっ、言っておくけど俺の全財産はこの白金貨十枚だけじゃないから」
大人げない? 確かにソウスケの異質、異常とも思える力と財力を考えれば大人げないと言われても仕方ないかもしれない。
ただ…………やはり、ウザいものはウザい。
死ね、クソガキ。と唾を吐きたくなるぐらいウザい。
それが貴族の令息となれば、尚更ウザさが増す。
「それで、君はザハーク……こいつに、どれぐらいの贅沢をさせてやれるんだ? あっ、言っておくけど俺はまだまだこれから冒険者として活動出来るから、毎年のように用意出来るんだけど、勿論今だけ大金を用意するんじゃなくて、これまらも毎年毎年白金貨をうん十枚用出来るんだよね」
ここで本当に少年が出所は不明としても、それだけの財力を有していると証明すれば、ソウスケは相手が貴族の少年という事もあり礼節を欠いたと頭を下げるつもりだった。
ただ、実際に規格外の財力を有していたところで、そもそもザハークが望む生活は悠々自適な極楽ではない。
常に刺激の中へと跳び込める環境。
それは、今の少年ではどう足掻いても用意出来ない環境である。
「っ、ぅ……ぁ」
闘志や殺気、戦意など一切零していないソウスケだが、その笑顔からは独特な気迫が漏れ出しており……ソウスケが自分には用意出来ない財力を持っているという、先程発した自分の言葉を思いっきりハンマーで殴られた感覚に……少年は涙を零した。
しかし、その涙を視たところで、ソウスケは一ミリもやり過ぎたとは思わなかった。
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