千二十三話 どっちが大事?

「そういえばソウスケさん、仮にその若い連中が先にヴェノレイクと遭遇してたらどうするんだ」


「どうするんだと言われてもな……戦いが終わるまで見守るしかないんじゃないか」


「そうか……意外だな」


ソウスケは優しい面だけではなく、厳しい面もある。

これまで共に行動してきたザハークはどういった優しさを、どういった厳しさをソウスケが持っているのか解っているつもりだった。


なので、今回も若造たちが先にヴェノレイクに遭遇してしまった場合、助けに入るのかと思っていた。


「もし、あいつらに助けを求められたら助けるよ。俺もさっきあれだけ生意気な事言ってたんだから、最後まで自分たちの力でなんとかしろよ、って鬼や悪魔みたいなことは言わないよ」


彼等には、ソウスケが感じたことがない感情があった。


だからこそ自分たちに対して余計な真似をするなら、自分たちがヴェノレイクを倒すと宣言したことに対して、とやかく言うつもりはない。


仕方ない事だと受け入れているので、助けを求められれば普通に助ける。


「けど、冒険者ってやっぱり面子を守ってなんぼ、みたいなところがあるのは……これまでの経験から、なんとなく解るだろ」


「…………強敵が相手でも、決して背を向けたくないといった感覚の様なものか」


「そこまで気高くない気がするけど……大体そんな感じか? だから、自分たちが超危ない状況に追い込まれてたとしても、助けを絶対に借りようとしないかもしれない」


寧ろ、ソウスケはあそこまで啖呵を切っておいて、助けを呼べるのか? という疑問があった。


「……ソウスケさん。あの子たちのリーダー格の男は態度を変えないかもしれませんが、他の者たちの気持ちは変わるかもしれませんよ」


「それもそうか。というか、普通に考えれば基本的に自分の命の方が大事だよな……いや、でも自分の命を放り出しても倒したいからヴェノレイクを自分たちで倒そうとしてるんだよな…………ダメだ、頭がこんがらがってきた」


もうこれ以上若造たちの事を考えても仕方ない。


そう思ったタイミングで……ソウスケよりも先にザハークとミレアナの鼻が異変を感じ取った。


「っ……ミレアナ、気付いたか」


「えぇ」


「素の状態だと、相変わらず二人の感知力はえぐいな。匂いか、音か?」


「匂いだ」


「おっけ……っ!!!! クソったれ、嗅覚上昇を使うんじゃなかった」


ソウスケの鼻に腐敗臭が突き刺さり、思いっきり顔を歪める。


「あっちか」


「そうですね」


誰かと戦っている音は聞こえてこない。


若造たちよりも先にヴェノレイクを発見出来たと解り、ホッと一安心するソウスケ……だったが、ミレアナの表情に焦りが浮かんだ。


「ソウスケさん。もしかしたらですが、あの子たちも今ヴェノレイクの気配を把握したかもしれません」


「っ!!!??? マジかよ。超タイミング悪いな……ミレアナ、先に行ってくれ」


「かしこまりました」


強化系のスキルを発動し、脚に旋風を纏って超加速。



「ふぅ……良かった良かった。どうやら俺らの方が先だったみたいだな」


「お、お前はっ!!!!!!」


ソウスケとザハークが遅れて現場に到着すると、既にミレアナが毒竜……ヴェノレイクと戦っており、少し離れた場所に……見ることしか出来ない若造たちがいた。


彼等にとって、ヴェノレイクが格上であることは変わりなく、それは本人達も完璧な奇襲を仕掛けようと考えていた。


しかし、一応後衛タイプであるミレアナにとっては、わざわざ奇襲を仕掛ける必要はなく……蛮勇を燃やす若者たちの命を無駄に散らさない為に、奇襲もクソもない遠距離攻撃でファーストヒットを与えることは容易であった。


「今、あそこでミレアナが戦ってるって事は、ミレアナが先にヴェノレイクに攻撃したってことで良いんだよな。つか……あれがヴェノレイクか。四足歩行のドラゴンがいるのは知ってるけど……なんて言うか、ドラゴンにしては見た目だあれだな」


「そうだな。強さに見た目は関係無いと思うが……あれだな」


今現在、ミレアナが一人でヴェノレイクと戦っているにもかかわらず、二人は直ぐに参戦しようとせず、じっくりヴェノレイクを観察していた。

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