千二十二話 イメージ出来ない
「ソウスケさんは相変わらず優しいですね」
「どこら辺がだ?」
「あの場で、彼らに対して現実を見せることも出来たでしょう」
言葉には出さないが、ミレアナとしてはそれも一つの優しさではないかと思えた。
「……大切な人、親しい人を失った人の気持ちってのは、実際に失った人にしか解らないだろ」
ソウスケはこれまで、そういった経験を一度も体験したことがなかった。
だからこそ……どれだけ言葉で取り繕おうとも、解らない。
上っ面の言葉しか出てこない。
「一応忠告はするが、それで求める権利はないと言うか……うん、だってあいつらも冒険者な訳だしな」
「中が少し騒がしかったか、また何かあったのか?」
「また何かがあったのですよ、ザハーク」
ギルドの中で何があったのか、ザハークに細かく正確に伝えるミレアナ。
説明を聞き終えたザハークは小さく笑った。
その笑みは決して心の底から出たものではなく……若干乾いた笑いだった。
「ヴェノレイクの説明を聞いても、そんな態度を取れるか」
「ザハークも、彼らが馬鹿だと思うか」
「……バカ、ではあるのだろうな。ただ、復讐心とやらは簡単に消えない感情だろう」
「俺は体験したことがないから上手く言えないけど、多分そうだと思う」
「…………消えない黒い炎、というやつか」
ザハークは人ではなくモンスター。
鬼人族ではなく、オーガの希少種。
人とはやや感覚は違う。
それでも……共に行動している者たちがいる。
(俺にとって、ソウスケさんやミレアナが殺されたと言った状況か……………………うむ、全く想像出来ないな)
何となく解かるかもしれないと思ったが、そもそもザハークはソウスケとミレアナが殺される姿が想像出来なかった。
仮に自分が傍におらずとも、二人がそこら辺の雑魚に負けるとは思えない。
守らなければならない存在がいたとしても、負けるイメージが一切浮かばない。
仮に強敵と呼べる者たちに襲われたとしても……傷を負えど、やはり負ける姿が全く思い浮かばない。
「やはり俺も解らないな。解らないが、ソウスケさん相手にそこまで食い下がったのであれば、そいつらの中で既に死んでもという覚悟は決まっているのだろう」
「……無駄な覚悟です」
「ふむ……お前にとっては、ソウスケさんが殺された状況と同じ。そう考えれば、そいつらが今すぐにでもヴェノレイクを殺しに行こうとするのは当然だと思わないのか」
「正確には、無謀でしたね。軽く視た限り、全く力及ばないとは言いません。ただ、足りない。どう考えても足りない。仮に…………万が一彼らがヴェノレイクを討伐出来たとしても、大半の者が死ぬでしょう」
冒険の際にイレギュラーが起き、冒険者たちが追い込まれることがあるのと同時に、万が一の奇跡が冒険者たち側に起き、モンスターや盗賊側が追い詰められることもある。
そんな奇跡が起きたとしても、全員が生き残れる可能性はゼロ。
「断言するなぁ……」
「では、ソウスケさんは彼らが全員生き残り、ヴェノレイクを討伐出来ると思いますか?」
ミレアナにしては、珍しく明確な反論……自分の意見をぶつける形となった。
「……俺はあいつらの何かじゃない。ここでお世辞を言う必要はない。無理だと思ってるよ」
「でしょう。万が一の奇跡が起きて討伐出来たとしても、共に戦った仲間が、友人がその戦いで死ねば……生き残った者たちは心の底から復讐達成を喜べるでしょうか」
「無理だろうな。仮に喜んだとしたら、結構サイコパスな奴か……自分の思考を中心として生きてる奴だろうな」
あいつは尊敬する人の仇を討つための犠牲となった。
だから悲しむ必要はない……と発言する光景を見た場合、ソウスケを怒気を抑えられる自信がなかった。
「彼らがこの五年……最低でも三年、死ぬ気で鍛錬と実戦を積み重ねて挑むと考えているのであればまだしも、今の状態でヴェノレイクに挑むのは勇気ではなく、ただの蛮勇です」
ミレアナは……彼等の想いを、怒りをバカにしたい訳ではなかった。
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