千二十一話 カッコ良く言ってるけど
職員と共にギルドに訪れたソウスケとミレアナは空き部屋に入り、中で契約に近い依頼書を作成。
「よろしく頼む」
「そんな頭を下げないでくださいよ。俺たちは冒険者、依頼を受けたらその依頼を成功させるために頑張るだけですから」
「……色んな意味で強いな、君は」
ギルド職員はソウスケたちが運良く街に訪れたことに、深く深く感謝した。
他の職員たちもソウスケたちに感謝している。
しかし、同じギルドという組織に属していても、冒険者が職員たちと同じ気持ちとは限らない。
「えっと、俺に用があるって事で良いのかな」
「おぅ、そうだ」
ソウスケたちの目の前に現れた冒険者たちは、比較的若い者たちばかりだが……ソウスケから視て、それなりの実力を備えていた。
「ストレートに言うぜ。よそ者が首を突っ込むな」
「……それは、毒竜ヴェノレイクに関して、という事かな」
「そうだ。あいつは……あいつだけは、俺たちが絶対にぶっ殺す!!!」
自分には向けられていない。
だが、ソウスケは彼等の目に宿る意志が何なのか……どこか、見覚えがあった。
(復讐、かな? この街をメインに活動しているベテラン冒険者……彼等の師匠やその仲間がヴェノレイクに殺された、といったところか?)
ありきたりな予想をするソウスケ。
そんなありきたりな予想は、見事当たっていた。
「復讐は何も生まない、って聖職者の人は言うかもな。そういう人は大事な人を失ったことがないんだろう。もしかしたらそういった経験をしたことがありながらも、他者にそう説く人はいるかもしれない」
何かいきなり語りだした。
お前の話を聞きたいんじゃねえ!!!!! と叫びたい若者たちだが、隣のエルフの目が……邪魔すれば殺すと語っていた。
「ただ、そいつは我慢することが得意なだけで、それはその人の我慢耐性があっての対応方法だ。そいつは、誰かに押し付けて良い方法ではない」
「…………」
いきなり語りだしたが、ようやくすれば自分たちの行動を後押ししてくれるのか? そう思う若者たちだったが、ソウスケは即座にその思いを否定した。
「本当の復讐心を抱いたら、それを達成しなければ先に進めない……なんてのが俺の考えなんだけど、ヴェノレイクに殺された人たちは、お前たちも同じく死んでほしいと思っているのか?」
「どういう、意味だ」
「そのままの意味だ。お前たちがヴェノレイクに挑めば殺される」
「ッ!!!!!」
「俺たちの何を知ってるんだって言いたげな眼だな。確かに俺はお前たちの歴史は知らない」
予想は当たっていた。
しかし、それまでの軌跡はさすがのソウスケでも解らない。
それでも確かに解ることはある。
「けど、これまでそれなりに戦ってきたから、鑑定を使わずともある程度解るんだ。お前たちがBランクのドラゴンに挑めば死ぬって」
「それが……お前に、なんの関係があるってんだッ!!!!!!!!!」
「全く関係無いな」
他人事だね。
そんな言葉に、周囲の野次馬冒険者たちは同じことを思った……こいつは結局何を言いたいのだと。
「けど、まだ人生これからなお前たちを思って、ギルドの人は偶々通りかかった俺たちに依頼したんだろ」
「だから、それがなんだって言うんだよ!!! 俺たちは、冒険者だ!!!!!」
「死んでも殺すって覚悟は決まってるんだな。確かに冒険者の、そういう覚悟を踏みにじるのは、同業者として思うところはる。でも、現実的な話、無理だよ。ただ殺されるだけじゃなくて、苦しんで苦しんで……もう殺してくれって思っても、そこから更に苦しめられて死ぬんじゃないか? 話を聞く限り、そういった腐りきったクソドラゴンみたいだからな」
「何度でも言うぞ。それが……復讐を諦める理由になるのかよ」
「カッコ良く言ってるけど、それは俺たちからすれば自殺志願者のセリフとしか思えない」
「ッ!!!!!!!!」
さすがに耐え切れなかったのか、若者たちのリーダー掴みかかろうとしたが、既にそこにソウスケの……二人の姿はなかった。
「とにかく、俺たちはギルドから依頼を受けたんだ。今日中に、できれば明日までにヴェノレイクを仕留める。それまでの間、お前たちがどうしようと、それはお前たちの勝手だ。じゃあな」
ギルドの出入り口に移動していたソウスケは本当に言いたい事をズバズバと言い、待っていたザハークと共に街の外へと向かった。
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