千二十話 覚悟を持っていても……
とりあえず焦っている。それだけは解るため、ソウスケは手を上げてあんたが口にしている冒険者はここだと告げた。
「き、君がソウスケ君、か」
「えぇ、そうです。色々と言いたいというか聞きたいこと? があるんでしょうけど、一旦落ち着きましょう」
「あ、あぁ…………そう、だな」
ミレアナが特に店に外に……街の外に意識を向けていなかったこともあり、ソウスケは直ぐに自分たちが動かなければならないであろう事態ではないと把握。
ギルド職員はソウスケに言われた通り、落ち着くために一杯だけ紅茶を頼んだ。
「それで、俺にどういった御用で?」
「……この街付近の森でヴェノレイクの目撃情報があったんだ」
「ヴェノレイク……ヴェノレイク?」
「ソウスケさん、毒竜の一種かと」
この世界で活動を始めて濃い体験をしてきたが、それでもまだまだ知識が浅い部分がある。
「彼女の……ミレアナ君の言う通り、ヴェノレイクは毒竜の一種だ。基本的に、この辺りに生息しないモンスターだ」
「突然発生した、もしくは渡り歩いてきた個体、ってことですか?」
「後者だ」
予想のうちの一つが的中。
高ランクのモンスターが流れ流れて、場違いな場所に住みつく。
そういったイレギュラーに関して……ソウスケとしては、特に驚くことはなかった。
「ミレアナ、その毒竜はそんなにランクが高いのか?」
「確か……Bランク、だったかと」
「ミレアナ君の言う通りだ」
Bランク。
一般的には十分過ぎるほど怪物扱いされる強モンスターだが、ソウスケたちからすれば、一体だけではまず脅威だと感じない。
「加えて、奴の毒は非常に多彩で強力なんだ。その点に限られば、Aランクに迫る」
「毒ですか。確かに俺やミレアナみたいにあまり残力を気にせず魔法を使えるタイプじゃないと、確かに厳しいか?」
毒が恐ろしい……その事実は前の世界で生活していた時からなんとなく分かっていた事実。
そしてそれは、この世界に来てからより強く理解した。
「……ヴェノレイクの恐ろしいところは、それだけではないんだ。奴は……狩りを楽しむ」
「生物的に、そういった部分がるということですか?」
「その通りだ」
生物を、もしくは人間を狩ることに楽しみを感じるモンスターというのは、稀に誕生する。
ただ……その稀に誕生する凶者には、そうなる過程が存在する。
しかし、ヴェノレイクは生まれながらの狩竜。
とてもとても厭らしい……最悪の狩竜なのだ。
「冒険者たちには冒険者のプライドがある。戦闘の中で死ぬことに恐れを感じていない……冒険者として活動していれば、モンスターと戦って死ぬと覚悟している者もいるだろう。ただ……ヴェノレイクは狩りという体勢に入った場合、Aランクの冒険者を仕留めたという記録も残っているんだ」
「Aランクを…………それは、確かに警戒してしまいますね」
Aランクの冒険者、もしくはAランククラスの戦闘者たちを頭の中で思い浮かべるソウスケ。
(どの人も本当に強い。それはこの国でも変わらないと考えると……本当に、恐ろしい毒竜なんだろうな)
ソウスケの中で一気に評価が上がったヴェノレイク。
「そうだ。言いたくはないが、彼らが無駄死にしてしまう可能性が非常に高い……だから、偶々君たちがこの街に来ていると聞き、直接訪ねさせてもらった」
グレンゼブル帝国に訪れてから最初に訪れた街で、ドラゴニックバレーを目指すソウスケを思いっきりバカにしてしまったチャラ男が見るも無残な姿にされてしまった件は……まだ、この街にまで届いてはいなかった。
二人の元を訪れたギルド職員の男性は非常に真面目な男であり、隣の国で短期間の間に冒険者として活躍し続けていたソウスケの情報もしっかりと頭に入れていた。
「……分かりました。それでは、移動しましょうか」
カフェでの昼食を終え、ソウスケたちはギルド職員と共に冒険者ギルドへと向かった。
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