千十九話 誰が守れる?

「いやぁ~~~、あんな事があったのに、良く俺たちにルーキーの指導をしてほしいって頼めたもんだな」


ドラゴニックバレーへと向かう道中、ソウスケはつい先日起こった出来事を思い出し、爆笑。


一人のCランク冒険者がドラゴニックバレーの場所についてギルド職員に尋ねるソウスケをバカにした。

周囲の冒険者たちもCランクの男と同じ事を考えていたため、便乗して安全距離からバカにし続けた。


ソウスケとしては、最近は少なくなってはいたが、慣れた状態と言えなくはなかった。

我慢出来ることもできたが、今現在ソウスケたちはグレンゼブル王国という、未知の国へと訪れていた。


ソウスケの名声はルクローラ王国との戦争でエイリスト王国、ルクローラ以外の国にも響き渡ったが……噂と言うのは広がれば広がるほど尾ひれ背びれが付いていくもの。


見た目が二十歳を越えていない青年ということもあり、未だエイリスト王国内でも……その噂は全て出鱈目なのではないかとと口にする者もいる。


「自分たちはただ冒険者同士が試合を行うのを了承しただけ、なのでソウスケさんに対してあれこれと頼むのは間違ったことでもおかしなことでもない……そう考えていたのでしょう」


「なるほどぉ~? それなら、もうちょい厳しめにあのチャラ男冒険者とかを注意してくれると嬉しかったんだけど……それは俺の我儘か」


特に今更な話、本当にギルドに対して守ってほしいなどとは思っていない。


「とはいえ、あんな冒険者がいるって解ったのに、わざわざ指導の依頼を俺が受けると思うか?」


「……繰り返しますが、やはり冒険者ギルドは自分たちは悪くない、というスタンスであるのかと」


冷静に、第三者目線になってみれば解らなくもない思考ではある。


(そういえば、一応職員は本当に俺があのチャラ男と試合するのかって心配はしてたか……そう考えると、完全にあの件に関してノータッチだったとは言えないか)


乱闘、もしくは明らかな物理的虐めが行われていた訳ではない。


言葉による暴力など、どの業界でも日常茶飯事に行われている。


「この世界だと、もう俺の年齢だと守られることはない……つっても、前の世界でも何だかんだで完全に守られてるとは言い辛いか」


ソウスケは元の世界で虐めを受けた経験は……ない。


しかし、時代の発展と共にどこでどういった虐めが発生した、それで誰が亡くなったという情報が耳に入るようになった。


「はっはっは!!! ソウスケさんを守れる存在など、この世界ではそう多くはないだろ」


「ザハークの言う通りですね。権力的な話ならまだしも……ソウスケさんを守れる方など、ほぼいないに等しいでしょう」


枠を人間だけではなくモンスターまで広げれば見つかるかもしれないが、ミレアナの言う通り、まずソウスケたちが出会ってきた人物の中では殆どいない。


「いや、そりゃそうかもしれないけどさ」


蛇腹剣の力、能力を含めずともトップクラスの戦闘力を有するまでに成長したソウスケ。


実戦的な力は同世代やベテラン達と比べても頭幾つか抜けてることは本人も解っている。

ただ……どれだけ物理的な強さが成長したとしても、ソウスケの精神年齢がまだ二十を越えていない、歳相応の青年であることに変わりはない。


(…………辛くなったら、ミレアナやザハークに頼れば良いだけか)


ソウスケは決して一人で行動しているのではない。

頼れる中がいつも傍にいることを思い出し、心に残っていたモヤモヤがゆっくりと晴れていった。



数日後、三人はドラゴニックバレーへ向かう道中に泊まった街……オンバルのカフェで昼食を食べていた。


「そ、ソウスケという名の冒険者はいるか!!??」


「…………ギルド、職員?」


突然店に入ってソウスケの名を口にした男は、二人の見間違いでなければギルドの制服を着ていた。

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