千十五話 どちらかが満足するまで

(解ってはいたけど、冒険者たちは本当にこういうのが好きだよな~~~)


案の定、ソウスケをバカにする空気を作った切っ掛けの男は簡単に乗せられ、訓練場へ移動。

そのまま大勢の冒険者たちも移動し、既にどちらが勝つか賭けが行われている。


「えっ……あの、マジっすか」


「マジですが、何か問題でも? あなた達はあの男が勝つと思っているのでしょう。なら良いではありませんか」


「あ、はい」


(……ミレアナの奴、何かしたな?)


既に目の前のバカをどう潰そうかだけを考えていた為、ミレアナが具体的に何をしたのかは解っていない。


因みに、ミレアナがソウスケの勝ちに白金貨一枚を掛けた。

しかも……もう賭けを終了するという超ギリギリのタイミングで。


「これは模擬戦じゃねぇ……試合、あるいは決闘だ。死にそうになったからって、土下座しても許さねぇからな」


「……あれだよね。あんた達はそういうセリフが本当に好きだよね」


「チッ!! 態度だけは一丁前だな、クソガキ」


ソウスケとしては、それはこっちのセリフなんですけど、と言い返したいところだが……それはそれで目の前の残念過ぎる馬鹿と同じ土俵に上がってしまうと思い、とりあえず他に思ったことを口にする。


(なんで……本当になんでこういう事が割としょっちゅう起こるんだろうな…………娯楽が少ないから、か? 遥か昔は処刑とかが一種の娯楽になってたって聞くけど……だからか?)


この世界には圧倒的に娯楽が少ない。

それはソウスケも解っている。

だからといって虐めに近い行為が娯楽になっても良いのかという疑問はあるが……一応そういう認識になっている理由に納得出来なくはない。


「そりゃどうも。お兄さんもそんなに強くないのに、そこまで偉そうに威張れて立派だね」


「ッ……ぶっ殺してほしい、自殺願望者ってことで良いんだな。言っておくが、あのエルフの女が乱入したら、あいつも殺すぜ」


「…………ぶはっはっは!!!!!!!!」


「っ!? んだよ……気でも狂ったか」


そろそろ試合、もしくは決闘……一方的な私刑が始まろうかというタイミングで、絡まれ馬鹿にされ粋がっていた少年に近い青年の方が急に大声で笑い始めた。


対峙する男、円をつくっている冒険者たちが、恐怖で気が狂ったとしか思えない。


だが、エルフの女が乱入すればあいつも殺す……そんな男のセリフを聞いて、ミレアナの実力を知っているソウスケからすれば……もはやギャグとしか思えない発言である。


(み、ミレアナをあんたらが殺すって……む、無理に決まってるだろ。あんたらが束になっても勝てる訳ないってのに。はぁ~~~~~……だめだ、本当に面白過ぎる)


男としては至って真面目……ガチな気持ちで吐いたセリフだったが、ソウスケからすれば一種のそういう作戦なのか? と疑いたくなる発現。


「いいや、別に狂ってないよ。ただ、あまりにもあんたの発言が面白かっただけだよ。それより、もう賭けの方も締め切ったみたいだし、始めましょうよ」


「良いぜ……その態度、後悔してもしきれないぐらい叩き潰してやるよ!!!!!!」


今回の戦いに、審判はいない。

どちらかが納得するまで、それが両者によって決められた決着内容。


普通に考えれば、いくら何でも危険すぎる。

ギルド側が止める内容ではあるが……チャラついてはいるが、一応それなりの戦闘力は持っている男と、いきなり周囲の同業者から馬鹿にされ始めた見た目が少年に近い青年の二人が了承している。


本人達が了承しているのであれば、ギルドとしても無理に止められない。


「……えっ」


チャラ男の方から仕掛け……数秒後、誰かの声が零れた。


観客の冒険者たちが予想していたのは一方的なショー。

調子に乗っているメイド? 付きの坊ちゃんが現実を知って泣きわめくも潰され続けるショー。


だが、結果は似た様な者ではあるが、観客たちが望んでいたものではなかった。

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