千十四話 悪い噂でも構わない

「ぷっ!! おんぶ抱っこなクソガキが何夢見てんだか」


グレンゼブル帝国に入国してから初めて訪れた街の冒険者ギルドに入ったソウスケ達。


ザハークはギルドの外で待ってもらい、ソウスケとミレアナは中に入ってドラゴニックバレーがある街へのルートを職員に尋ねた。


その次の瞬間、職員が二人のランクなどを確認する前に……会話を聞いていた二十代半ばの冒険者がソウスケをバカにしながら笑った。


「お前みたいなエルフの姉ちゃんにおんぶ抱っこなクソガキがドラゴニックバレーに行きたいって本気で思ってんのかよ」


「……えぇ、まぁそうですね。それが目的でこの国に来たんで」


「だっはっはっは!!!!!! こいつは傑作だぜ!!! 他国から来たバカか……はっはっは、仲間の力を借りただけで強くなったつもりなんだろうなぁ~~~。お前、人を笑わせる才能はあるぜ!!!」


グレンゼブル帝国のドラゴニックバレーは……悪さをする子供たちに対し、これ以上悪さをするならドラゴニックバレーに連れて行くぞ!!! という所謂鬼ヶ島的な扱いをされている場所。


まだまだ何も知らない人物からすれば、冒険者になりたてのルーキーにしか見えないソウスケ。

加えて、そのすぐ隣に超絶美人なエルフ(ハイ・エルフ)のミレアナがいることもあって、偏見……と言えなくもない印象を与えてしまう。


「もしかして、貴族の坊ちゃんか? バカな事考えず、なんなら冒険者なんて辞めてさっさと実家に帰んな!!!」


「ぶはっはっは!!! おいおい言い過ぎだぜ~~~。ママ~~~って泣いちゃったらどうするんだよ~」


「んな根性品じゃ、結局現実に潰されるだけだろ~~。善意だよぜ・ん・い」


ほぼ……ギルド内、全ての人間が敵。

まだソウスケとミレアナのギルドカードを見てないこともあって、ギルド職員たちも「悪い事は言わないから、バカな発言はしない方い良いよ」と憐れみの視線を向けてくる。


(なんか……あれだな。ここまで同業者からがっつり馬鹿にされるのは、結構久しぶりって言うか……もしかして初めてか?)


しかし、歳は上である同業者たちからどれだけ馬鹿にする言葉を投げられても、ソウスケの表情に怒り……ましてや恐怖は一切浮かんでこない。


相変わらずソウスケからすれば、漫画やライトノベルでしか見たことがないような連中……もしくは、SNSで誹謗中傷している人間が目の前に現れた、といった感覚。


化け物クラスのモンスターと何度も戦ってきたソウスケとしては、蛇腹剣がなければ自分の首に確実に刃を添えてくる怪物たちや……ルクローラ王国との戦いで腕をぶった斬られた騎士、ジェリファー・アディスタなどの方がよっぽど恐ろしい。


「はっはっは!!! ビビッて固まっちゃったかぁ~~~~?」


(こうなるだろうとは予想してたからあれなんだけど……これから先何回も続くと思うと……うん、ダルいな)


見えない位置から暴言を吐かれるから辛いのか?

ぶっちゃけた話、暴言などは目の前で言われてもどちらにしろ辛い。


ソウスケにとっては辛さやダメージはないものの、ウザさや苛立ちはちょっとずつ重なっていく。


(今、ここで大胆にやっておいた方が良さそうだな)


結果として悪い噂になったとしても構わない。

何故なら……先に喧嘩を売ってきたのはグレンゼブル帝国の人間なのだから。


「なぁ、面倒だから訓練場で片付けようぜ」


「……ぶはっはっは!!!! なんだ、戦えば僕は強いんですよ~ってか?」


「あの、もうそういうのは本当に良いんで。早くしてください。それか……怖いなら断っても良いですよ」


「はぁ~~~~~~~???」


「だって、それだけ煽って見下した相手からの挑戦をそうやって逃げるってことは、本当な内心……産まれたての小鹿の様に震えてるってことですよね。俺も……本当は弱み者虐めをしたいわけではないんで、本当は怖くて俺と戦いなくないなら、そう言ってください。俺は正直な人を虐める気はないんで」


煽ろうと思えばいつでも煽ることは出来る。


ただ、本人の言葉通り、弱い者虐めをするつもりはないので、本当に……本当に切っ掛けを作った男が頭を下げて謝れば……見逃すつもりだった。


しかし、逃げ道は既にソウスケは馬鹿にした本人が塞いでしまっていた。

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