七百五話 タダで貰ってもおかしくない

「っと、すまねぇ。助かったぜあんたら」


大の字に倒れた男は直ぐに起き上がり、ソウスケたちに礼を伝えた。


「ワードの言う通りだ。あなた達が助けてくれなければ、フレイムジャッカルに殺されていた可能性が高い。本当に助かった」


「そうだな。今回はマジで危なかったよ。ありがとさん」


「あなた方のお陰で、私たちをここで命を散らさずに済みました。心から礼を」


ワードという名の冒険者に続き、残り三人も同じく感謝の言葉を述べた。


「俺たちには余力があったし、さすがにあの光景を見たらな…………まぁ、でもあなた達がフレイムジャッカルなんかに防戦だったのも、これを見れば納得です」


改めて見ると、四人が強者だということが解る。

現在はややボロボロな姿ではあるが、それでも強者だけが無意識に体から零れるオーラがある。


(スラウザーマンモス……Aランクの中でもバカデカいモンスターだ)


マンモスタイプの超パワーモンスター。

体は大きく、半端じゃない力を持っているが……体が大きい分、一見動きが遅いと思われがち。


しかし、それは視る目がないだけ。

確かにAランクの中ではあまり動きは速くない。


だが、それなりの速さと反応速度はあるので、そこを見誤ると痛い目に合う……というか、即死させられる可能性が高い。


加えて、その防御力が高い毛皮。

生半可な攻撃では攻撃が取らないどころか、弾き返されてしまう。


とりあえず何がなんでもダメージを与える。

それだけに集中してしまっていると……仮にダメージを与えられたとしても、決して遅くない動きと超強力な重い攻撃の餌食となる。


「は、ははは。そう言ってもらえると有難いぜ。もう依頼は達成したから帰るつもりだったんだけどよ。偶々この化け物に遭遇しちまってな」


「運が悪かった、としか言いようがなかったな」


その頃は依頼達成帰りとはいえ、それなりに体力は残っていた。


(……大剣使いの元気なお兄さんに、エルフで超魔法が得意そうでクールな紳士兄さん。獅子人族でワイルド味が溢れる美人お姉さんと、包容力が高そうな弓使いのお姉さん……決して脚は遅くないよな)


パッと見る限り、Aランクモンスターとはいえ全速力で逃げれば、逃げ切れないことはない。


「なんで、逃げなかったんですか」


ミレアナがフレイムジャッカルの解体を始め、ザハークが見張りを行っている中……ソウスケは思わず尋ねた。

全力で逃げれば逃げれたはず。死にかけることもなかった。


なのに何故、クラウザーマンモスと戦う道を選んだのか。


「そりゃ……俺らはこれでもAランクの冒険者だからな。見逃せなかったんだよ」


「クラウザーマンモスを放っておけば、多くの冒険者が殺されていた筈……多分だけどね」


「こいつは残虐性が……とにかく、獲物を絶対に狩るという信念があるモンスターだ。ここで我々が倒していなければ、多くの被害が出ていた筈だ」


トップ位置に立つ者として、見逃すわけにはいかなかった。


(……命を懸けても、他の冒険者や後輩たちの為に立ち向かったって訳か……強いな)


本当に強い。

ソウスケは心の底からそう思った。


「立派ですね」


と、本心を口にしながら亜空間に手を突っ込み、高級回復ポーションと同じく高級な魔力回復ポーションを四人に渡した。


「おいおい、これ絶対に高いやつだろ。そんなの貰えないって」


大剣使い、ワードは鑑定系のスキルは持っていないが、今までの経験則からソウスケが手に持つポーションは絶対に高いと確信を持って言える。


「見たところ、もう回復する手段がないんですよね」


スラウザーマンモスとの戦いで体力魔力、アイテムは全消費。

正真正銘、ワードたちには回復手段がなかった。


「同業者や、後輩たちの為に命を懸けた褒美……ではないですけど、そう思えばタダで貰ってもおかしくないと思いますよ」


「……そんなこと言われたら、受け取るしかねぇじゃねぇか」


ソウスケの言葉を受け取り、ワードは心底嬉しそうな表情でポーションを手に取った。

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