七百二話 バッサリ切る

朝食を食べ終えた二人はザハークと合流し、いつもより早めの時間に宿を出てダンジョン探索へと出発。


道中では特に三人に絡む者などおらず、それは上級者向けダンジョンの入り口に着いてから同じだった。


(視線は当然集まるけど……もう、誰も俺たちを勧誘する人はいないみたいだな)


先日の内に、ザハークがAランク相当の力を持つ盗賊と悪魔を倒したという話が広がり、ついでにソウスケとミレアナが大活躍だったという話も広まった。


(俺を侮るような視線が結構減ったな)


噂が広まったお陰で、ソウスケに対して侮る……下に見る視線の数は随分と減った。


そんな視線にはかなり慣れていたソウスケだが、下に見られないのはそれはそれで良い気分。

若干鼻歌しそうになりながらも、平常心でダンジョンに突入。


一気に三十一階層の入り口に転移し、いざ五十層のラスボスの部屋を目指す。


「……やはりここは暑いですね」


「はは、そうだな。それは仕方ない」


暑さ対策はしているが、完全に熱気を感じないわけではない。


(やっぱりアシュラコングとザハークが戦った火山付近と比べて暑いよな……下手したら、モンスターに殺される前に熱中症に殺られる可能性だってあるぜ)


ある程度対策をしていれば問題はないが、調子に乗って「暑さなんて根性で乗り切れるんだよ!!!」なんてアホ丸出しの考えで挑めば、速攻で後悔することになるエリア。


「またヒートミノタウロスやファイヤドレイクが襲ってきてくれると、有難いものだな」


「……それは確かにそうだな」


ザハークは単純に強い奴と戦いたい。


そしてソウスケとしては、ヒートミノタウロスやファイヤドレイクの様な強いモンスターの素材をゲットできることは非常に嬉しい。


(強敵と遭遇したら、今度は一人で戦ってみるのもありですね)


普段は強敵との戦闘にあまり興味を示さないミレアナだが……最近錬金術の調子が良いこともあり、高ランクモンスターの素材が欲しいと思い始めたところ。


ソウスケとしては、それぐらい言ってくれれば渡すのだが、ミレアナのプライドがそれを許さない。


「ソウスケさん。もし強敵が現れたら、私も戦ってよろしいでしょうか」


「お、おう。勿論構わないぞ。でも、ミレアナがそんな事言うなんて珍しいな」


「うむ、確かにそうだな。やはりあれか、ミレアナも強敵との熱い戦いに惹かれたということか」


「いいえ。違いますよ」


ミレアナはあっさりとザハークの言葉をバッサリと切り捨てた。


「ただ、マジックアイテムや杖の制作素材として、高ランクモンスターの素材が欲しいなと思っただけです」


「なるほど。その素材は是非とも自分でゲットしたいってことか」


「その通りです」


ミレアナともそれなりに付き合いが長くなってきたので、ソウスケはある程度何を考えているのか解るようになってきた。


「強敵っていうと、四十層以降になるまではやっぱりザハークがさっき言ってたヒートミノタウロスとかファイヤドレイク……とかだよな」


「そうですね。稀にAランクのモンスターも出現するようですが、可能性としては限りなく低いかと」


「二人にその気があるなら、次回は譲ろうか」


「ッ……珍しいな、ザハーク。お前が強敵との戦いを譲るなんて」


驚愕の表情になるソウスケとミレアナ。


「そんなに驚くことか? やはり順番というものは大事だろう。確かにバンディーとパズズとの戦いは少々不完全燃焼ではあったが、Aランクモンスター並みの力があったことに間違いはない」


「ま、まぁそれはそうだな」


ザハークの言葉通り、パズズと融合したバンディーの力は仮にあの場にAランクの冒険者がいたとしても、一人ではほぼ倒せなかった。


「そういう訳だ。もう一度言うが、二人にその気があるなら、次の機会は譲ろう」


「……それでは、お言葉に甘えさせてもらいましょう」


ひとまず、次の強敵と戦うのはミレアナに決定した。

ただ……ここはダンジョンであり、願ったところで物事が上手くいくかは……ダンジョンのみが知る。

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