六百九十話 そろそろ本気で楽しむ

「パズズ、あれをやるぞ」


「……バンディー、更に寿命を縮めることになるぞ。いや、最悪死ぬ可能性もある」


「知るか!!!! あんな嘗められた態度を取られて、黙ってられるわけねぇだろ!!!!」


ザハークは意識的にバンディーのことを煽った訳ではないのだが、第三者から見て……零した言葉は充分バンディーのことを煽り散らかしていた。


(そうか……まぁ、構わないか)


バンディーの言うあれを使ったとしても、上手くやればパズズ自身は死ぬことはない。

それが分かっているので、一瞬だけ考え込んだが直ぐに了承した。


「それもそうだな。では、やるか」


パズズは奥の手を使用し、体が霧状になると……バンディーの体に侵入。


「が、ガァァアアァァァアアアアッ!!!!!!!!」


パズズと体が一体化する衝撃に耐えながらも、バンディーは気を失わずにザハークに対して殺意を向け続ける。


(これって……あれだよな。戦〇ヒーローとか、仮〇ライダーが変身してる時の状態だよな。今思いっきり攻撃すれば、二人とも上手い具合に殺せそうだけど……ザハークはそんなことする気は一ミリも無いみたいだな)


バンディーの体が徐々に大きくなり、体の所々に赤黒い刺青が現れ……パズズの特徴的な部分であったサソリの尾や鷲の羽が生え、頭部に二つの角が生えた。


「ほぅ……悪魔と一体化し、まさに悪魔のような姿になり……その強さを得たという訳か」


先程までにバンディーとパズズの攻撃に関して、それなりに楽しめてはいたので、もう少し戦いを楽しんでも良いかと思っていた。


だが、劇的なパワーアップを果たしたバンディーを目の前にし……無意識に身体強化系のスキルを使用していた。


「てめぇは絶対に潰す……泣いて謝っても、土下座しても潰す。んで、後ろの奴らも絶対に殺す」


先程までのバンディーと違い、その言葉が一つ一つに重さが……圧が込められていた。


ザハークを殺した後は、直ぐに後ろで観戦しているソウスケたちを潰すという意思は嘘ではない。

だが、ザハークからすればそれは無理過ぎる……無謀な意思だった。


「残念だが、仮に俺を倒したとしても後ろにいるソウスケさんやミレアナを倒すのは不可能だ。諦めた方が良い」


「ぬかせ!!!!!」


ほんの少し前までとは比べ物にならない速さで駆け出し、ザハークに呪われた斧を振りかざすバンディー。


しかしザハークも強化系のスキルを使用し、パワーアップした腕力と魔斧で受け止める。

結果として防御に成功し、魔斧の効果で呪いを食らうこともない。


ただ……今の一撃で少し地面に押し込まれてしまった。


(ふっふっふ、良い力だ……ここからは本気で楽しんだ方が良さそうだな)


パズズのサソリの尾や鷲の翼を受け継いでおり、それらを使った攻撃も使ってくるであろうと読んだザハークは水の魔力で翼と尾を生み出し、それに対抗。


「どうしたどうした!!!! お前の力はそんなものか!!!!!」


「うるせぇぇええええッ!!!! 調子に乗ってんじゃねぇぞおおおおおッ!!!!!」


戦いは先程よりも更に激化。


ソウスケはこのままだとこちらに被害が飛んでくるかと思い、ラップたちに少し下がるように伝えた。


「いやぁ……強いのは分かってたが、なんだありゃ?」


「ラップの気持ち、凄い良く解るぜ。アイリ、お前ザハークと同じ様なことできるか?」


「無茶言わないでください。出来る訳ないじゃないですか……実際にザハークさんが行っているので、不可能な技術ではないと思いますが……相当な魔力操作の腕と、体や武器に翼や尾に意識を分けられる頭がなければ無理です」


後衛のアンリとしては、習得出来れば嬉しい技術だが……まず覚えることが多過ぎる。

魔力操作の点に関してはもう少し鍛えれば及第点に辿り着くが、他の武器と一緒に扱うという課題に関しては……何年と鍛錬を積んでも上手くできる気がしない。


「だよな……でも、向こうの悪魔と合体した野郎も、平然と同じことやってるよな……なぁ、ソウスケ。これでもまだ、手を貸さない方が……良いんだよな?」


「えぇ、そうですね。ようやく本気で楽しめてるようなので、ザハークが勝つのを待つのが一番かと」


相手がいくらパワーアップしようと、ソウスケがザハークの勝利を全く疑っていなかった。

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