六百九十一話 逃がしはしない

(実力的には、赤毛のアシュラコングに近い……いや、一度に物理攻撃や攻撃魔法、サソリの尾とか使う点を考えれば、同等の実力か……少し上ぐらいの力を持っていてもおかしくないな)


ザハークの勝利を疑っていないソウスケだが、決してパズズと融合したバンディーが弱いとは思っていない。


並み以上の冒険者であっても苦戦する力を持っているのは間違いない。


(ザハークの攻撃はちょくちょく当たってるけど、物凄い勢いで回復してるよな……パズズと融合したことで、治癒能力が格段に上がってるって訳か)


ノーダメージと言える状態かもしれないが、それはザハークも同じ。

バンディーよりもしっかり防御に意識を割いているので、全く攻撃を食らっていない。


「ソウスケさん、少し長引きそうですね」


「……どうだろうな?」


「ソウスケさんとしては、もう直ぐ終わるかもしれないということですか? ですが、ザハークは強敵との戦いを存分に楽しむタイプですから、悪魔と融合した盗賊の実力を考えると、そう簡単には終らないかと思いますが」


「いや、あの状態のバンディーがかなり強いのは俺も分かってるよ」


年齢以上の力を持っているソウスケであっても、蛇腹剣の力を使わなければ、楽には勝てない相手。

そしてザハークの性格も知っているので、普通に考えれば直ぐには終らない戦い。


それぐらいはソウスケも解っているが、少し引っ掛かる部分があった。


「でもさ、悪魔と契約できる時点で、それなりの才能と実力は持ってたんだろ」


「……かもしれませんね」


「そのお陰で素の実力も上がってたみたいだけど、パズズとの融合? あれに長時間耐えられるのは……また別の話なんじゃないかと思うんだよな」


バンディーがパズズと契約を結べたのは、実のところ運が良かったという部分が大きい。

二人の力関係を考えると……バンディーがパズズを体内に取り込めば、強大な力こそ手に入るがパズズの力に耐えきれる時間はそう長くはない。


(それに、超高速で傷が癒えているとはいえ、癒えるまでの間に少なからず血は流れている。アドレナリンがドバドバ状態で痛みに鈍くなってたとしても、貧血状態になれば少しは動きの質が落ちるのは間違いないだろ)


それらの内容から、ソウスケはザハークが長くバンディーとの戦いを楽しみたくとも、向こう側の事情であまり長くは楽しめないと予想。


「それに、寿命が何たらとか死ぬかもしれないとか言ってたし、案外無茶をして呆気ない形で終わるかもしれないだろ」


「そういえばそんな事を言っていましたね。なるほど……盗賊はザハークの言う通り少々アホの様ですし、その辺りは全く考えていなさそうですね」


ミレアナの言葉にソウスケはノータイムでうんうんと頷いた。


「でも、一応動く準備はしとかないとな」


「どうしてだソウスケ君? 俺でもザハークが有利な状態で戦っているのが解るが」


Cランク冒険者たちであるラップたちはある程度、二人の戦いを目で追えているので、どういった戦況なのか把握出来ている。


確かに二人とも同等な動きでバチバチにやり合っている様に見えるが、よくよく見ればザハークの方が動きに余裕があるのが分かる。


ちなみにDランクのフォルクスたちは二人の動きが速すぎて、全く目で追えていなかった。


「いくら契約を結んでいるとはいっても、仲間って雰囲気じゃなさそうだし……バンディーがもう無理だと分れば、パズズはバンディーを見捨てて逃げるかもしれない」


二人の契約内容に、最後の最後まで……命が尽きるまで力を貸す、なんて重い内容はない。


そして、一回パズズが魔界に逃げてしまえば……もう、ソウスケたちがパズズを仕留めるチャンスはない。


(別にパズズに対して私怨とかないけど、バンディーに力を貸して色々やってくれたみたいだから、きっちりけじめはつけてもらわないとな)

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