六百八十九話 そうだな、アホなんだな
「……これ、背後から攻撃すればどっちかは倒せそうだけど……そういうことはしない方が良い感じ、だよな」
「はは、そうですね。殴られはしないと思いますけど、とにかく怒られはするかと」
「あの戦いっぷりを見ればな……どう考えても、まだザハークには余裕あるっしょ」
戦いの最中に時折見える表情から、ジャンはまだザハークが本気を出していないことに気付いていた。
「なっ! そ、ソウスケ。それは本当なのか」
「あぁ、本当だぞ。確かにパズズが渡した大剣を斧を手にしてからバンディーの身体能力は飛躍的に上がったけど、パズズとの連携は全く進歩してないし……まだ、赤毛のアシュラコングの方が強いだろうな」
「……凄過ぎる、だろ」
まさかの事実に、虎人族のジープは心底驚いた表情になり、他のルーキーたちも似た様な顔になっていた。
「おそらく呪われているであろう斧を手にしてから、身体能力は上がりました。ですが、攻撃方法は先程よりも更に単調になりました。その点を考えると、ザハークからすれば寧ろ今の攻撃の方が対応しやすいでしょう」
元々バンディーは技術を駆使して戦うタイプではないが、斧を手にして呪われた状態になり……更に動きに雑さが加わった。
(だからって、そう簡単にあの盗賊と悪魔の攻撃に対応出来るかって話だよな……俺は絶対に無理だ。どう考えても無理。二刀流で一気に二つの攻撃を対処出来るって言っても、あの攻撃力を考えるとちょっとな)
二刀流で戦うラップは敵の連撃を捌くのにも自信がある方だが、バンディーの斧による攻撃とパズズの魔法攻撃や尾による攻撃を捌けるとは思えない。
十秒すら耐えられない自信がある。
(いや~~~~~、本当に今回の討伐はソウスケたちが参加してくれて良かったぜ)
ラップだけではなく、全員が同じ気持ちだった。
仮にパズズが悪魔と契約していない状態であれば、ソウスケたちなしでも盗賊団を全滅できた自信がある。
パズズが支援系のスキルなどを持っていたとしても……ギリなんとかなる。
だが、悪魔と契約して更に強くなるという状況だと、さすがに生きて帰れない。
「でも……あの斧、中々ヤバそうな呪いを発してるよな……食らったら結構不味そうだな」
「そうですね。私たちの力だけでは難しいかもしれません」
ソウスケとミレアナも水の回復魔法であれば使える。
だが、傷だけではなく程度によるが呪いごと癒すのは難しい。
(もしかしたら蛇腹剣でいけるか?)
いけそうな気がしなくもないが、ソウスケ的には確率が低い気がする。
「ですが、確かダンジョンの宝箱から手に入れたポーションを使えば……大丈夫では?」
「……そういえば、そんなポーションを手に入れたな……んじゃ、やっぱり全く気にする必要はないか」
「そうですね」
呪いを癒し、消滅させるポーションというのは、確かにダンジョンの宝箱から入手できる。
ただ、一般的なポーションや魔力回復のポーションと比べて、値段がかなり高い。
同等のランクであっても、値段には三倍から五倍の差がある。
それを使うのに全く躊躇いがない二人の様子を見て、ラップたちは当たり前かと思いながらも……やっぱりどこか二人は自分と感覚が違うと思った。
「チッ!!!! てめぇ……いい加減に死にやがれ!!!!!」
「悪いが、俺は自殺志願者ではない。死ねと言われて死ぬわけがないだろう、アホか……いや、すまん。盗賊という人生を選んでいる時点でアホだったな」
今回の発言も、特に挑発や煽りを意識したわけではない。
ただ……純粋にザハークなりに考えた結果、盗賊として活動しているバンディーはマジのアホという結論に至ったのだ。
「ブハッハッハッハ!!!! ザハーク、お前最高過ぎる!!!」
堪えることが出来ず、今回ばかりは声に出して笑ってしまったソウスケ。
ミレアナやラップたちも、大なり小なり声を出しながら笑ってしまい……バンディーが今までの人生で一番ブチ切れることになった。
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