六百三十二話 ナイスタイミング

「なんか、ちょっと虫系のモンスターが多くないか?」


「そうですね。決してそういった階層ではないのですが、少々多い気がします」


ニ十層のボスを倒し、三十階層まで順調に探索を進めるソウスケたち御一行だが、妙に遭遇するモンスターが虫系である確率が高い。


「別に良いのではないが? 虫系のモンスターはそれなりに金になる筈だろ。それに装備品の素材としても悪くない」


鍛冶が出来るザハークにとって、虫系モンスターの甲殻は優秀な素材という印象が強い。

それは同じく鍛冶を行えるソウスケも感じたが、それでも予想していたよりも虫系モンスターと遭遇する機会が多いので、気にするなというのは無理だった。


「もしかして、何かダンジョントラブルでも起きてるのか?」


「……それはどうでしょうか。確かに虫系のモンスターと遭遇する機会は多いですが、強さに異常があるとは思えません」


「まぁ、それは確かにそうだな」


鑑定スキルを持っているソウスケはモンスターを倒すたびに一応鑑定を行っているが、特別レベルが高いモンスターやランクがずば抜けて高い個体が現れることはない。


「数が異様に多い群れもいませんし……偶々、私たちが虫系のモンスターと多く遭遇しているだけではないでしょうか」


「偶々か……まっ、それもそうか」


そこまで気にする必要はないと思い込み、駆け足で探索を続行。

すると前方と後方から三体のセンチネルが三人に襲い掛かってきた。


「ザハーク、後ろの一体を頼んでも良いか」


「任せてくれ」


前方の二体はソウスケとミレアナが担当し、後方から襲い掛かる一体はザハークが対応。


「悪いが、サクッと死んでくれ」


ザハークが担当するセンチネルのレベルは二十八。

ランクもCと厄介な敵だがザハークの手に掛かれば十秒もあれば終わらせられる。


体をくねくねと動かし、後衛職からすれば狙いが定めづらい敵であり、それはザハークにとっても同じだった。


(水魔法で終わらせようと思っていたが……予定変更だ)


それなりに魔力操作の腕が上がったという自覚しているが、それでも目の前でうねうねと動く敵を見て大技で仕留めた方が早いと一瞬思ってしまった。


だが、大技で倒してしまうと素材が残らない可能性が高い。


(ここまで上手くやってきたのだ。ここで木っ端微塵にしてしまうのは……気分的に良くない)


両手に水の魔力を纏い、鋭い刃へと形を変える。

そしてセンチネルの咬みつきや絡みつく攻撃を躱し、体の節目を狙って一気に切断していく。


「ッ!!! ッ……ッ!! ……」


センチネルは体が切断されても少しの間は稼働する厄介さを持つが、ザハークはソウスケが入れても入れても容量に限界が来ない収納スキルを有しているのを利用し、センチネルの体を大量に切り分けた。


そこまで斬り刻まれては生命力も一気に弱まり、斬られた部分は直ぐに動かなくなった。


「止めてしまえば、こちらのものですね」


ミレアナはアイスフロアを発動し、センチネルの足元を一瞬で氷漬けにした。


「ナイス!!」


どんな攻撃をされるのか感知できなかった二体のセンチネルはあっさりと氷に捕まった。

そしてミレアナが放ったアイスフロアはセンチネルの脚だけを捉え、体は氷漬けになっていない。


見事な魔力のコントロールだと思いながらソウスケは直ぐに魔石の位置を把握し、魔石がある部分だけをグラディウスでカット。


そして手に魔力を纏いながら魔石を引き抜いた。

ミレアナも同じ方法でモンスターにとって内臓などよりも重要な存在である魔石をあっさりと体内から引く抜き、それでもまだ動いて二人を殺そうと必死に動いて脚の氷を割る度にナイスタイミングでミレアナがアイスフロアを発動。


割った瞬間に宙に跳べばまだなんとかなる可能性はあるのだが、その一瞬を逃さずジャストタイミングで凍らされる。

その繰り返しが三度ほど行われ、センチネルはそのまま動かなくなった。

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