六百十八話 十分、売り物になる

「ついに潜るのですね」


「あぁ。とはいっても、潜るのはせいぜい四十階層までだけどな」


一仕事終えて宿に戻るとミレアナが丁度杖を造っている最中だったので、それが終わってから今日の出来事を話した。


「ミレアナはどこまで潜ったんだ?」


「私は十五層までです」


「そうのか。あんまり潜ってなかったんだな」


「そうですね。やはり一人ではあまり深くまで潜ろうという気持ちにはならなかったので」


丁度良い相手とガチで戦うには中級者向けダンジョンのニ十層から三十層の間を行き来していれば、基本的には満足出来る。


そしてミレアナの力量的に、杖造りに使える素材は中級者向けダンジョンで手に入る素材だけで十分ということもあり、あまり上級者向けダンジョンには挑戦していなかった。


ただ……ミレアナの戦力を考えれば、一人で三十階層辺りまでは余裕で降りることが出来る。

溶岩地帯は攻略するのにかなり準備しなければならい階層だが、水魔法が得意なミレアナは苦も無く動き回りながら下に降りられる。


「なら、きちんと攻略するのはこれからって訳だな」


「ですね……ターリアさんから注文を受けた武器の素材を取りに行くということは、今回の探索と制作が終わればようやく露店で造り上げてきた武器や防具を売るのですか?」


「……そう、だな。二人で……いったいどれぐらいの装備品を造ったけ?」


「どれぐらい…………済まないが、全く覚えていない。五十は超えていると思うが……ソウスケさんは偶に気分転換といって指輪やネックレスなどのマジックアイテムを造っていたから、それを考えると百は超えているかもしれないな」


指輪やネックレスタイプのマジックアイテムや、杖に関しては武器や防具と比べて比較的早く作り終わる。

それもあって、二人が造り上げた装備品の数は百を越えていた。


「……お二人とも流石ですね」


「ふふ、ありがとな。でもさ、ミレアナだってちょいちょい杖造りをしてたんだろ。後、ダンジョンの中でポーションを造ってたって聞いたぞ」


「え、えぇ……そ、そうですね。ボス戦の際、自分の番が回ってくるまで暇つぶしに造っていました」


実際にボス部屋前で時間を潰す為に造っていた時は何も感じなかったが、いざソウスケに知られていると分かると、やや恥ずかしく感じた。


「それなら、ミレアナが造ったポーションと杖も一緒に売ろう。な」


「それは嬉しい提案ですが……私の腕はソウスケさんと比べると、まだまだですよ」


それは確かな事実。

ただ、それはソウスケが神様から制作経験がなくともスキルレベル五の鍛冶や錬金術を貰っているからであり、ミレアナの腕は決して低くない。


才能や将来性、現時点の実力を考えても周りと比べて頭一つか二つ抜けている。


使用した素材の質でゴリ押した結果、そこそこ良い杖を造れてしまったという結果も多々あるが、ミレアナが造り上げてきた杖の中で全く売り物にならない物はなかった。


「そんなことないって。この前チラッと見せてもらったけど、全然売り物になるって」


「そ、そうですか? それなら……露店を出す際には、よろしくお願いします」


自己評価が低い点はややソウスケに似てしまったミレアナ。

この場にザハークがいれば、目の前の現状にため息を吐いてしまったかもしれない。


二人が案外似ている点があったという事実など知らず、ザハークは明日からのダンジョンを楽しみにしながら既に寝ていた。


「一応一階層からになりますので、四十階層まで降りるとなれば……最短でも十日ほど掛かるかもしれませんね」


「十日か……いや、余計な部分を無視して一気に三十階層まで降りれば、もう少し短くなるんじゃないか?」


「……モンスターの戦闘などに全く時間を掛けないのであれば、確かに短縮できそうですね」


現在、ターリアから制作まで依頼を受けているので、ソウスケとしてはなるべく早く地上に戻りたい。

しかし、ここで一つ重要なことをソウスケは思い出した。

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