六百十七話 それは腰が抜ける

「ソウスケさん、悩み過ぎだ。もう少し自分の腕に自信を持ったらどうだ」


「いや、それなりに経験が追いついてきたとは思うけどさ……この金額を見るとな」


現在、ソウスケが開発したエアーホッケーはまだまだ順調に売れている。

値段は一般人からすればアホみたいに高いが、それでも人は娯楽に飢えている。


今でも夜には寝る前に制作に取り掛かり、朝鍛冶場に来る前に商人ギルドに寄って購入者に送るように渡している。

冒険者としての収入だけではなく、商人としての収入が尋常ではない。


だが……それでも約白金貨一枚の値段がどれだけの価値があるのか、それは理解している。

理解しているからこそ、その価値に見合う装備を造るとなると……必然と緊張してしまう。


「……約白金貨一枚というのは確かに大金だ。そしてターリアが一握りの強者のも解る……だが、ソウスケさんの鍛冶師としての腕前も負けてはいない。俺はそう思っている」


「そ、そうか?」


「あぁ、勿論だ。そうでなければ、冒険者として活動しながらも鍛冶もやっているという人間に、わざわざ依頼者が来ると思うか」


「ん~~~……まぁ、そうかもしれない、な」


冒険者業を行いながら、鍛冶師としても活動している。

確かに傍から見れば、少々おかしな人と思われるかもしれない。


(俺の場合は、単純に生徒たちの前で実力を見せたから、あいつらが勝手に鍛冶の腕もそれなりにあるんだろうと思ってただけだと思うんだが……いや、とりあえずターリアさんの依頼は受けたんだ。依頼を受けた以上、自分が造れる最高の作品を造らないとな)


ザハークの言葉もあり、ソウスケの目から不安さは消えた。

だが、今すぐに制作を行うことは出来ない。


「とはいえ、いったいどんな素材を使おうか……アシュラコングの骨とか使うか?」


自信が持っている素材の中で、使えそうだと思ったのは火山地帯でザハークがソロで倒したAランクのモンスター、アシュラコングだった。


ザハークが比較的綺麗に倒したことで、残っている素材の状態はかなり良い。

牙や爪でなくとも、骨も武器の素材として十分に利用出来る。


「……ソウスケさん、さすがにそれを使うターリアが卒倒するのではないか」


最近はザハークも素材の価値を理解し始めている。

自身は火属性のアシュラコングとの戦いに関しては、とても満足出来た。楽しいという感情しかないが、アシュラコングのランクはA。


Aランクモンスターの素材がどれだけ貴重なのか、そして手に入りずらいのか……それを考えると、約金貨五十枚では足りない。


「そうか? 別に全部使う訳じゃないし」


「それでもだ。出来上がった武器を視れば、ソウスケさんも流石にやり過ぎたと思う筈だ」


「……なら止めておくか」


ターリアが知人で善人ということもあり、少々感覚が緩くなっていた。

知人、友人割引価格で提供するとしても、流石に金貨五十枚に対してAランクモンスターの素材は釣り合わない。


「……けどさ、やっぱりBランクモンスターの素材ぐらいは使った方が良いよな」


「それはそうだな」


「やっぱり持ち手の中で良い素材が思い付かないな……よし、取りに行くか」


手元に無ければ、モンスターを討伐して手に入れる。

冒険者らしい思考に、ザハークも賛成だった。


「それが一番だな。だが、何処に行くのだ?」


火属性が付与された魔剣と脇差。

つまり、火属性のモンスターの素材が必要になるのだが……そう簡単に遭遇できる属性のモンスターではない。


ただ……ここはダンジョンが三つもある学術都市。

例外的な場所が存在する。


「確か、上級者向けダンジョンの三十一階層から四十層が火山地帯というか……溶岩地帯? だった筈だ。そこなら場所的に……階層的にも目ぼしいモンスターがいるだろ」


「ほぅ、ついに上級者向けダンジョンに行くのか……ふっふっふ、それは楽しみだな」


「最下層まで潜るのはまた今度だけどな」


少々予定とは違ったが、ようやくソウスケたちも上級者向けダンジョンにガチで潜ることが決まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る