六百十六話 それは造れる

「ソウスケさん、誰かが来たぞ」


「みたいだな」


足音が聞こえたので、扉の前に行くと……そこには轟炎流剣術の門下生であるターリアが立っていた。


「どうも、こんにちは」


「ど、どうも……お久しぶりです」


「そうですね。ソウスケさんとお会いするのは久しぶりかもしれませんね。今日は、客としてここに来ました」


「そ、そうですか……えっと、中へどうぞ」


座れる場所に移動し、亜空間の中からコップと果実水を取り出してターリアをもてなす。


「……美味しいですね」


「ありがとうございます」


亜空間の中から取り出された果実水が冷たい。

いったい、いつ亜空間の中に入れたのかにもよるが、ソウスケの収納スキルの質がどれほど高いのかが感じ取れる。


「本当に、鍛冶を為されているのですね」


「はい。造るのが……まぁ、それなりに得意なんで」


神から貰った際ではあるが、努力はある程度重ねているからこそ少しずつではあるが、腕は上がっている。


「そうなのですね。ソウスケさんに一つ、頼みがあります。私の火属性の魔剣を一つ。それと、脇差を一つ造っていただきたいと思っています。勿論、料金はお支払い致します」


言い終えると、ターリアは収納袋の中から一つの袋を取り出し、テーブルの上に置いた。


「金貨が百枚近く入っています」


「っ!? そ、そうです、か」


金貨百枚近くとなれば、おおよそ白金貨一枚。


(え、もしかして金貨百枚ぐらい価値がある武器を造ってくれってことなのか? いや、言葉通りだよな)


この時、ソウスケはダンジョンの宝箱から手に入った魔剣などでは駄目なのかと思ったが、直ぐにそのよろしくない考えは捨てた。


(絶対に俺が造った作品と、そうじゃない作品ぐらい解るよな)


ターリアが鑑定系のスキルを持っているのか否か、そんなことは知らない。

ただ、実際に作品を見ればバレてしまう……直感がそう告げてきた。


「えっと、ターリアさんは脇差も使うんですね」


「えぇ、少し前に師範から勧められて使ってみたのですが、意外と使いやすいく感じたので」


脇差だけではなく、一般的な刀も使えるがターリアのメイン武器はロングソード。

その点は変わらないが、街中を歩く際に万が一の事態を考えて直ぐに取り出せて小回りが利く武器が欲しい。


「その、脇差に関しては……造れるでしょうか」


学術都市には多くの技術が集まるが、その技術者……鍛冶師たちの中でも刀剣類を造れる者は少ない。

造れる者たちも刀剣に関しては予約が詰まっているので、直ぐに造ってもらうことは出来ない。


なので、ターリアはソウスケがそれなりに武器を造れても、刀剣類を造れるのかという心配があった。


「大丈夫ですよ。それでは、この金額に見合った火属性のロングソードと脇差を造らせてもらいます」


「あ、ありがとうございます! こちらこそ、よろしくお願いします」


ホッとした表情でターリアが鍛冶場から出て行ったあと、ソウスケは難しそうな顔をしながら椅子に腰を下ろしていた。


(……脇差はダンジョンの宝箱からは滅多に出ない品だからな。そっちに期待するのは……って、それは駄目だって決めただろ!!! ……でも、古代の日本みたいな大陸があるなら……そこにここと同じくダンジョンみたいな不思議要素満載な場所があるなら、そこの宝箱からは脇差とかの刀剣類が手に入るのかもな)


未知なる大陸などを考えると少しだけ気分が晴れやかになったが、そっとターリアが置いていった金貨が何十枚と入った袋に目を向け、溜息を吐いた。


「何をそんなに悩んでいるんだ、ソウスケさん」


「いや、ターリアさん……結構な大金を置いていっただろ。それに見合う代物を造れるか……ちょっと不安でさ」


(……またつまらないことで悩んでいるな)


口には出さないが、心の中で思わず呟いてしまった。

だが、ザハークがこう思ってしまうのも無理はない。


ソウスケは材料費が掛からないということもあって、売る際にはかなり値段を低めに設定している。

ルーキーにも手に入るようにという考えもあってだが、普通に考えるとほぼ赤字。


しかし、ちょいちょい武器屋を視て、ソウスケの隣で造っているザハークだからこそ解る。

ソウスケの腕前であれば、ある程度の材料さえ揃ってしまえばターリアが望む品は十分に造れると。

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