六百十五話 今こそ二人の力を……
「それじゃあ、本当に氷結の鋼牙がミレアナ先生たちを襲う……かもしれないんですね」
「その可能性はある筈です……まぁ、無駄死にするだけですが」
フルード・ガルザックは噂通り、冷静な性格。
裏で動くことはあっても、私情で動くことは今まで殆どない。
最優先すべきは、クランの利益。
決して心底バカでなければ、ミレアナたちとぶつかれば損しかないというのは理解出来る。
故にフルード・ガルザックが動かない可能性は高い。
だが……ギリス・アルバ―グルが動くか否かはまた別の話。
「話を聞く限り、氷結の鋼牙のトップである……フルード・ガルザック、でしたか? トップが中心になって動く可能性は低そうですね」
「け、けどミレアナ先生。その……同じ貴族だからこそ分かるというか、ギリス・アルバ―グルはフルード・ガルザックに止められたとしても、動く気がします」
同じ貴族だからこそ……自分たちの中にある、大なり小なりの傲慢さ……それがあるのは自覚している。
「そうなるかもしれませんね……どうするのですか、ミレアナさん」
「先程言った通り、やることは変わりませんよ。私に……私たちに牙をむくのであれば、死を覚悟してもらいます」
パーティーのリーダーはソウスケなので、最終的に愚か者たちをどう処分するのかはソウスケが決める。
(面倒事は避けたいソウスケさんですが、ダンジョン内で起ったことは基本的に外部に漏れることはない……それならば、始末するかもしれませんね)
ミレアナ個人としては、このまま自分たちに手を出すのであれば、己の愚かさを後悔してくれればそれで良い。
だが……生徒たちに手を出した後に、自分たちに手を出すのであれば……そのまま地獄に突き落としたい。
「ミレアナさん、少々殺気が漏れていますよ」
「あら、すみません。少しよろしくないパターンを想像していたので」
「そうですか……何はともあれば、ギリス・アルバ―グルたちが暗殺者を雇ったとしても、返り討ちにされるのが目に見えていますね」
「ふふ、こちらにはソウスケさんいますからね」
例え相手が中々依頼者に関して口を割らない者であったとしても、ソウスケならばなんとか出来てしまう。
「み、ミレアナ先生は本当にソウスケ先生のことを信頼してるんですね」
「……そうですね。ソウスケには、出来ないことが殆どないんですよ」
それはさすがに嘘だろ。
通常時であれば出てくるであろう言葉が、のどに詰まって出てこなかった。
(そ、ソウスケ先生ならあり得そう)
冒険者らしい格好はしているが、そこまで威圧感や貫禄がある見た目ではない。
そこら辺にいそうな好青年だが、その実力は歳が近い自分たちとかけ離れている。
いったいどれ程修羅場を越えればそこまでの強さを手に入れられるのか……一端は聞いているが、細かい部分が気になる生徒たちは多い。
「だから、仮にあの勘違い貴族が他者の手を使ったとしても、必ず潰されるでしょう」
ここで辛気臭い話は終了し、他愛もない会話を楽しみ……この日は解散した。
ミレアナは万が一を考え、今日は生徒たちを寮まで送った。
「ふぅーーーー、ちょっと休憩しよっと」
場所は変わり、ミレアナがギリス・アルバ―グルに絡まれた日の翌日、ソウスケとザハークは熱い鍛冶場の環境など一切気にせず、武器造りに励んでいた。
「……ソウスケさん、朝からやけに気難しそうな顔をしていたが、何か問題でも起こったのか?」
「良く分かったな。問題って言うほどそこまで大きくはないというか……ぶっちゃけ、いつものことではあるんだけどな」
自分やミレアナが面倒な人物に絡まれる。
本当にこちらの世界に来てからはよくあるあるな話。
(絡まれるのが俺たちだけなら全然構わないんだけど、もしかしたら生徒たちに危険が及ぶかもしれないのはちょっとなぁ~~……)
鍛冶の成果に影響が出るほど動揺はしていないが、今のところ本日は会心の出来と思える作品は造れていない。
(……いっそ、あの二人に頼むか?)
契約してからなんだかんだで、全くその力を借りていなかった二人の力を今こそ借りようか……そう思ったタイミングで、鍛冶場に客が現れた。
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