六百十九話 久しぶりの二人

「ダンジョンに潜る前に、氷結の鋼牙の……ギリス・アルバ―グルだったか。あいつが暴走しないように対策しておかないとな」


冒険者ギルド内でミレアナと揉めた若者、ギリス・アルバ―グル。

家名持ちなので、貴族の令息ということは分かっている。


クランのトップであるフルード・ガルザックが冷静な人物であったとしても、ミレアナの話を聞く限りギリス・アルバ―グルは貴族特有の傲慢さを持っている。


(確かに、あのナルシスト貴族が本当に私の忠告を無視せず、大人しくしているかどうか……)


あの時、確かにギリス・アルバ―グルはミレアナに怯え、恐怖を感じていた。

ただ……傲慢な貴族は総じて図太く、都合の悪いことは頭から消去しようとする。


「というわけで、あの二人を呼ぶ」


「……あぁ~~、あの二人ですね」


ソウスケは床に魔法陣を発動し、魔力を込める。

すると数秒後には二体の人型悪魔が現れた。


「ふぅ~~~~、随分と久しぶりだな。ようやく俺たちの力が必要になったか?」


「それとも、この体を使ってあなたを楽しませるのが仕事? あなたの命令なら、そういうのもありね」


現れた二体の悪魔はレグルスとレーラ。

二体とも悪魔の中では最上位に位置する力を持つ凶悪な悪魔。


しかし他とは隔絶した力を持つからこそソウスケの異常さに気付き、特に反抗するような態度は取らない。


「いや、レーラ。そういうのが頼みじゃない。まぁ、レグルスの言う通りちょっと頼みたいことがあるんだ」


「強者との戦闘か? それともソウスケたちの護衛か?」


「後者に近いな」


ソウスケは二人に何があったのかをざっと説明した。

話を聞き終えた二人はチラッとミレアナの方を見て、小さくため息を吐いた。


「とんだ馬鹿がいたものだな。ミレアナの様な強者に強気な態度で軍門に下れと言うなど」


「レグルスの言う通りねぇ~~~。ねぇ、ミレアナ。そのおバカさんはどうしたの? 細切れに刻んだ?」


「いいえ。さすがに人の目がありましたので、今回は暴力で解決しませんでした」


そう、ミレアナの言う通り今回は暴力を振るわなかった。

それでもソウスケがアホ過ぎてついでに馬鹿な連中に絡まれていれば、その鋭い健脚で吹き飛ばすこともはる。


「ただ、しっかりと脅すように忠告はしました」


「結構ガッツリやってくれたみたいなんだ。でも、やっぱりちょっと不安があってさ」


「なるほど……しかし、そんな三下が二人を襲おうとしたとしても、返り討ち合うだけではないか?」


「二人を倒すなら、上位のドラゴン……その中でもとびっきり強い奴を用意しないと駄目でしょうね。あっ、確か二人だけじゃなくて、オーガの希少種もいるのでしょ」


「あぁ、ザハークは今従魔用の場所で寝てるからここにはいないけど」


「それなら……上位のドラゴンを用意しても、案外あっさり倒されるかもね」


「そうだな。一体だけではまず無理だろうな」


実際に戦ったことはないが、建物越しでもザハークが魔物の中では飛び抜けた力を持っていることは把握している。


それを考えれば、上位のドラゴンが一体程度では三人を倒すことは出来ない。

二人の考えは全くもって正しかった。


「そりゃ三人でなら倒せるとは思うけど……って、そうじゃなくてさ。守ってほしいのは俺たち三人じゃなくて、俺たちが少し前に戦闘面や冒険者の中身について教えた生徒たちがいるんだよ」


「……いつの間にか冒険者から教師になったのか」


「いや、まだまだ現役の冒険者だよ。教師は……ダンジョンの転移トラップに引っ掛かった際に、偶々知り合った学校の教師から臨時で教師をしてくれないかって頼まれたんだよ」


「ほぅ、そうだったか。しかし……上手く教えられたのか?」


ソウスケの実力が高いということは解っているが、どの程度の技術や感性を持っているのかは知らない。


「それなりに教えられたと思うぞ。模擬戦を行う時もきっちり手加減出来てたし……な、ミレアナ」


「えぇ、勿論です。ソウスケさんは教師の道に進んでも成功すると思います」


一瞬不安になり、ミレアナに同意するように声を掛けると、必要以上によいしょされてしまった。


「そ、そうか……まっ、俺の指導力に関しては置いといて、その生徒たちを少しの間護衛してほしいんだ」


ソウスケからの頼みを断るつもりは元々なかった。

ただ、それでも二人は悪魔。


頼みを行ってもらうには、対価が必要となる。

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