六百十一話 それが一番の方法だが……
「とはいえ、まだこの子たちとの話は終っていませんし……ターリアさん、どうせなら一緒に夕食を食べませんか。勿論、あなた達も」
「嬉しい提案ですね。是非ご一緒させてください」
「み、ミレアナ先生。私たちも一緒で良いんですか?」
貴族の令嬢や令息なので、夕食代は全く心配していない。
しかし生徒たちも轟炎流のターリアの名は知っている。
年齢は自分たちとそこまで変わらないが、実力は圧倒的に開いている。
ミレアナの元に訪れた生徒たちは魔法を使った遠距離戦専門の者たちだが、クラスメートの接近戦が得意な者たちであってもターリアには敵わないと本能的に思ってしまった。
「えぇ、勿論ですよ」
「「「「あ、ありがとうございます!!!」」」」
自分たちの師であるミレアナと、女性でも男性に勝るとも劣らない力を持つターリアと一緒に夕食が食べられる。
それは生徒たちにとって二度と来ないである状況であり、今日という日は絶対に忘れないだろうと思う者までいた。
だが、今日という日を忘れない要因の一つとして、残っている心配事があった。
「あ、あの、ミレアナ先生」
「どうしましたか?」
「その、あの人たちは放っておいても大丈夫なんですか?」
あの人たちとは、ミレアナに詳しく勧誘する前に接触する態度をミスし、こっぴどくフラれてしまったギルスたちの氷結の鋼牙ご一行。
ミレアナからすれば、取るに足らない相手。
だが、生徒たちからすれば基本的にはバカにする様な態度は取れない相手なのだ。
そんな相手の評価を急降下させるような態度を取り、このまま去っても良いのか?
生徒たちはそれだけが不安であり、ミレアナやソウスケにザハークがこれからこの街で普段通り冒険者生活を送れるのか、それが心配だった。
「ふふ、問題ありませんよ。あの人たちに度胸があるなら、この場で私に襲い掛かるでしょう……いえ、それだとただのナルシストを気取った野蛮人になってしまいますね。常識を持っているならば、私に決闘を挑もうかもしれません。自身と……そしてクランの評価を回復させるには、私と戦って勝つのが一番ですからね」
まさにその通りであった。
短気な者であれば、ここまで馬鹿にされて黙っていられる筈がない。
血の気が多ければ、有無を言わさず襲い掛かるだろう。
しかしギリスが取り巻きとして連れてきた者たちの中にその様な者は一人もおらず、この状況でもミレアナに襲い掛かることはなく拳を震わせていた。
そして……この場限りではあるが、氷結の鋼牙の代表と言える人物……ギリス・アルバ―グルも常識を無視し、ギルド内で同じ冒険者に襲い掛かるほどアホでは無かった。
だが、心の中では腸が煮えくりかえっていた。
それでも襲い掛からず、決闘を挑まないのには明確な理由があった。
氷結の鋼牙のクランリーダーがミレアナと同じく氷魔法を扱うこともあり、冷気による圧には多少慣れていた。
ただ……それでも耐性を持っているだけで、ミレアナより実力が上ではないのだ。
(このクソエルフが!!! 好き勝手言わせておけば私たちを虚仮にして……許さん、許さんぞ!!!!)
爪が皮膚に食い込み、血を流すほど力を込めながら握り拳をつくっているが、それでも動かない……正確に言えば、動けなかった。
もちろん、決闘を申し込んで己のプライドを……そしてクランの評価を回復させたい。
しかしギリスの本能が既に敗北していたのだ。
ミレアナから向けられた圧はクランリーダーと同じか、それ以上のもの。
圧だけ一流並に出せる者ではないのか? 一瞬そう思ってしまったが、それでも本能が生き残るために「決闘を申し込む!!!!!」と口にする事はなかった。
上からの態度で絡んでおきながら、こっぴどくフラれて結局は何も言い返せない。
この状況を見て馬鹿にする者は多くいたが、ミレアナの実力がだいたいどれほどのものなのか……ある程度察した猛者たち気の毒にと思いながら、心の中で合掌を送った。
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