六百十話 割って入った人物は

もう、激突は避けられない。


学術都市の中でも上の方に位置するクラン、氷結の鋼牙。

中級者向けダンジョンの下層を一人で探索し、ラスボスを一人で倒してしまうハイ・エルフのミレアナ。


正確には、ミレアナの隣には希少種のオーガであるザハークと転生者ゆえに桁外れの力と手札の数を持つソウスケがいる。


大きな力が激突するかもしれない。

というか、今ここでミレアナとギリスたちがそのまま戦いを開始するかもしれない。

それは不味い! というのはギルド職員達も解っている。


これ以上二人を対面させれば、ギルドが破壊される……関係無い冒険者に被害が及ぶかもしれない。

冒険者同士の争いに関して基本的には関与しない冒険者ギルドだが、止めなければいけない状況ぐらいは判断できる。


ただ、戦えるギルド職員が二人の間に割って入ろうとする前に一人の女性がピリついた空間に割って入った。


「お話しているところ、失礼します」


「あなたは……ターリアさんじゃないですか。お久しぶりです」


「えぇ、お久しぶりです。ミレアナさん……このままではずっと待つことになりそうだと思ったので、割って入らせてもらいました。申し訳ございません」


ターリア、その名を聞いた冒険者たちがざわめき始めた。


「おい、確かターリアって」


「あぁ、多分そのターリアだよな。マジか、やっぱりあのエルフ……いや、ミレアナさんは本当にヤバい人なんだな」


ターリアの実力はBランク相当。

年齢がまだ若いこともあり、将来はAランククラスの実力者になるのではないかと噂されている。


実力を上げるには、モンスターと戦うのが効果的。

それはターリアも解っているので、一応冒険者としてギルドに登録している。


だが、ランクはD。

冒険者としての活動にはさほど興味がなく、ランクアップの機会を辞退している。

轟炎流に所属しているゆえに、上げるのは豪剣の腕が最優先。


冒険者活動は、モンスターを倒して素材を売って金を稼げる。

その仕組みさえ使えれば本人は十分だった。

故に、ターリアの存在はミレアナと似ていた。


対人戦だけではなく、いざとなればモンスターとの戦いでもその実力を十全に発揮する。

ランクだけが全てではない。

なんともミレアナやソウスケに似たタイプ。


そして……ミレアナと同じく女性としてのレベルがも高い。

戦闘の腕は勿論高いが、それだけではなく容姿やスタイルもそこら辺の女性とは比べ物にならない。


加えて、家事に関しても良妻と呼べる腕を持つ。


「こりゃあれだな……ギリスの野郎、女傑二人にぶっ飛ばされるかもな」


そんなターリアを狙って声を掛ける男は一人や二人ではない。

この学術都市には三つのダンジョン目当てに……もしくは新たな技術の習得を目当てにやって来る冒険者たちが多い。


なので、ターリアに今まで声を掛けてきた男性冒険者は合計で百は超えている。

その中には貴族の令息や期待のルーキー、冒険者ではかなり珍しいナチュラルイケメンなどもいた。


ただ……そんな冒険者たちを今までターリアは全て断ってきた。

恋愛に興味がゼロというわけではない。


それでもこの人なら良いかも……そう思える異性は今までいなかった。

良識がある冒険者たちは誘いを断られると潔く諦めるのだが、中には当然……中々諦めが悪い者もいる。


ターリアに一対一の勝負を挑む者は何十人といたが、全員敗れている。

口説こうとした女にあっさりと負け、恥を晒されたと逆恨みした者は真夜中の道でターリアを襲う者もいた。


しかし、街中でこそ油断してはならない。


師範であるレガースに常々教えられて来たターリアに隙はなく、何人ものアホ共が憲兵に突き出された。


「いえいえ、特に問題ありませんよ。この勘違いさんとの話は今終わりましたから」


……今日のミレアナは本当に色々と恐ろしい。

傍で状況を見ていた生徒たちは全員、同じ感想を持った。

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