六百十二話 確かな慈悲
もうここでミレアナとギリス・アルバ―グルが所属する氷結の鋼牙の口戦は終った。
ミレアナの完勝で終わったと誰もが思ったが、ターリアたちとギルドから出る前に口を開き、今日一の冷気と殺意を放ちながら言葉を漏らした。
「もし……仮にですよ。今後あなた達が轟炎流の門下生やこの子たちに手を出すようなことがあれば……あなた達だけではなく、氷結の鋼牙ごと潰しますので。お忘れなく」
「「「「「ッ!!!???」」」」」
ミレアナから放たれた本気の圧を受けたギリスたちは全員腰が抜け、中には失禁してしてしまう者までいた。
(おいおいおい、マジでヤバいな。あの姉ちゃん……いったいレベルは幾つなんだ?)
(あ~~あ、咬みつく相手を間違えたな、ギリスたちは。それにしても……うん、本当におっかないね。もしあの圧を向けられたら、立っていられる自信がない)
(これ、どう考えてもBランクやAランクの冒険者が放つ圧よね? こちらに向けてないとはいえ、私含めてベテラン以上の冒険者たちにここまで衝撃を与えるなんて……是非クランにと欲しがる気持ちだけは解るわね)
先程と同じく、ミレアナはギリスを含めた氷結の鋼牙にしか圧を向けていない。
だが、それでもどれほど濃密な圧を向けられているのか、察しが良い者であれば恐れを抱く。
察しが良くなくとも、不意に恐怖を感じてしまう。
「これは注意ではありません、警告です。私に喧嘩を売るならまだよろしいですが、他の人に迷惑を掛けるのであれば……殺されても文句は言えませんよね」
基本的に殺しはよろしくない。
ただ、この場にはミレアナの言葉が良く解かる者たちしかいない。
自身と因縁を持つ相手が自分に攻撃を仕掛けてくるのは百歩譲ってまだ良い。
だが……その因縁のせいで他者が傷付くと……どれほど心が痛むか。
知っている者は知っている。
これに関しては一瞬ではあるがギルスは頭の中で学生を使い、ミレアナにこちらの要望を絶対に聞かせよう。
なんてアホな事を一瞬ではあるが考えていた。
しかしミレアナのマジのガチな殺意を受け、死神の鎌が首に当られた様な錯覚を……どころの話ではなく、体のいたるところに死の刃を押し当られる様な錯覚を感じた。
それでも失神……もしくは失禁しないところを見ると、それなりの強者であり鍛えていると分かる。
ただそれでも意識を保つので精一杯だった。
「ですが……私のお仲間二人はとても優しいです。ふだんは温厚のソウスケさんですが、害をなす者には容赦ありません。あなた達が馬鹿なことをすれば……抉られるかもしれませんね」
クランメンバーだけではなく、その他大勢の冒険者たちもゾッとし、肩が震えた。
何をとは言っていないが、抉ると言った。
潰すや殺すという、それだけで終わらせるような内容ではなく、抉る。
本当にそんなことを氷結の鋼牙相手に出来るのであれば、ただの言葉ではないと完全に証明される。
「ザハークは本当に好戦的な性格ですが、怒りで我を失うようなことは多分ありませんので……あなた達の四肢を一つ一つ潰すかもしれませんね」
冒険者たちは心の中で前言撤回した。
ザハークという鬼人族に見えるオーガの従魔も十分にエグいことをすると。
「私としては、あまり同業者と衝突したくはありませんが……先に失礼を働いたのはそちらです。更に何かをしようとすれば……当然、罰が下ったとしても文句は言えませんよ」
先程と同じく、完全なる何か自分たちや他者に害をなせば殺すという死刑宣告。
「それでは、あなた達が賢明な判断を下せることを祈っています」
警告は終えた。
この先に踏み込んでくるのであれば、もう慈悲は無い。
本当はこの場で見せしめとして一人叩きのめしても良かったのだが、そうはしなかった。
それはミレアナの確かな優しさであり、慈悲。
これに対してどうギリスが……氷結の鋼牙が対応するのかは自由。
言いたい事を言い終えたミレアナは今度こそ冒険者ギルドから出て行った。
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