六百一話 そういうパターン?

ダンジョンのフォレストタイガーを探しに向かうが、その日は一日探索しても発見することが出来ず、森の中で一日を過ごす。


もしかしたら、数日間ぐらい探さなければならないかもしれない。


そこまで個体数が多いモンスターではないので、探索期間がそれぐらいになってしまう場合もある。

ただ、ミレアナにとってダンジョンで数日ほど過ごすぐらい、特に苦でも難でもない。


しかし今のミレアナは、なるべく早くソウスケに冒険者ギルドからランクアップしてほしいというメッセージが届いた。

という件を伝えたいので、早めにフォレストタイガーが見つかると嬉しい。


(……意外と見つかりませんね。普段潜っている時は案外さらっと遭遇するのですが……もしかして、探そうとすればあまり見つからないパターン、という流れでしょうか?)


モンスターにはそれなりに遭遇する。

どんなモンスターでも勢い良く襲い掛かり、あっさりと返り討ちにされてしまう。


あまり知能がないモンスターは死体を解体するミレアナが隙だらけだと感じ、奇襲を仕掛けて倒そうとするが、バレバレな殺気に気付かないミレアナではない。


モンスターの中には気配遮断のスキルを持ち、数秒ではあるが動きながらも気配を消すことが出来るモンスターもいる。

カメレオンタイプのモンスター、スピアレオンや森のエリアでは珍しいモンスターであるシャドウスネーク。


ミレアナの資格から鋭い舌や毒液が零れだす牙を使ってくるが、気配は消せていても殺気や戦意までは消せていない個体が多い。


加えて、ミレアナはソウスケやザハークよりも聴覚が優れている。

自身に迫りくる攻撃の小さな音を感知することが出来るので、気配や音と感情を消す能力が相当優れていなければ、ミレアナに不意打ちでダメージを与えることはかなり難しい。


ダメージを全く食らうことなく徐々に階層を降りていくが、やはりお目当てのモンスターには遭遇出来ない。


「…………」


「偶には格闘戦もありですね」


フォレストタイガーと遭遇しない代わりに、サイクロプスと遭遇。


サイクロプスはミレアナと視線が合うなり、ニヤッと笑いながら右手に持つ棍棒を全力で振り下ろしてきた。


「ッ!!!」


「……相手との実力差をあまり理解していない個体なのですね」


頭上に降り下ろされた棍棒を軽々と受け止める。


この一撃で相手を潰せると思っていたサイクロプスの表情が驚愕に染まるが、ミレアナはいたって普段通り。

確かにミレアナの細腕ではぶっとい腕から振り下ろされるサイクロプスの一撃を受け止められるとは、到底思えない。


第三者がその光景を見ていれば、悲鳴を上げるかもしれない。


しかしこの世界では、見た目が結果に現れるとは限らない。


「それで終わりではないでしょう」


棍棒を受け止めながら腹部に蹴りを入れられ、苦悶の表情を浮かべながら吹き飛ぶサイクロプス。


蹴りで腹に穴が空くことはなかったが、数度ほどバウンドするような蹴りを食らったサイクロプスの表情は苦い。


「グゥオオオァアアアアアアアッ!!!!!!!」


相手が華奢な体であったとしても、自分より高い身体能力を秘めているかもしれない。

それが分かっていなかったサイクロプスはミレアナから蹴りを食らい、怒りだしてようやく本気を見せた。


身体強化と腕力強化の同時使用を行い、槌術スキルによる技を惜しみなく使用して暴れ回る。

振り回される棍棒によって地面が割れ、木々が抉られる。


(体が大きいだけあって、パワーはそれなりですね。ただ、槌術だけしか使わないところが惜しいですね)


戦う相手が仮にザハークであれば、棍棒を振り回すだけではなく、同時に体術も使用する。

しかしサイクロプスにはメイン武器で戦う、ということしか頭に無い。


折角の自慢のパワーも当てなければ意味がなく、相手の動きを予測して当てる……なんてことは一切考えてない攻撃など、身体強化を使用するミレアナに直撃することはない。


一応危機感がある接近戦を数分ほど体験したミレアナは用済みとばかり、薙ぎ払われる棍棒の力を受け流して重い蹴りを首に叩きこむ。


放たれた蹴りは綺麗に決まり、サイクロプスの首を切断することなく骨を折ることに成功。


「次はフォレストタイガーに遭遇できると良いですね」

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