六百話 現在何をしているのか
「えっと、確かいつも一緒に行動している方ですよね」
「えぇ、その通りです」
「ソウスケさんにも同じく、是非ランクアップしてほしいと上の方から通達を受けています」
冒険者ギルドに所属している職員の中で元冒険者として活動している者が複数おり、その中には元高ランクの冒険者も存在する。
そんな職員がソウスケとミレアナをチラッと視た時、自分と同等……もしくはそれ以上の存在かもしれないと感じた。
それは既に上へ報告されており、後はそれなりの依頼を受ければ昇格試験を受ける資格を得られる。
(ソウスケさんと一緒に、ですか……それなら受けても良さそうですね)
ソウスケも一緒にランクアップ出来る。
それならば、受付嬢から伝えられた提案を受けても構わないと思った。
ただ、ランクアップに関してはミレアナの一存で決めて良いことではない。
最終的にはパーティーのリーダーであるソウスケが受けるか否かを決める。
「…………一旦、その話は持ち帰らせていただきます」
「わ、分かりました。あと、その……ソウスケさんの方が最近、いったい何をしているんですか?」
ミレアナは依頼を受ける為に、素材を買い取ってもらう為にちょくちょくギルドに現れている。
だが、ソウスケは全くと言って良いほど最近は冒険者ギルドに顔を出さない。
それなりの強さを持っているのは、受付嬢たちもなんとなくは分かっている。
しかし、素材の買取にすら最近は現れない。
もしかしてミレアナだけに働かせて、自分は宿でグータラしてるんじゃないか……そんな噂が少々出回っていた。
「ソウスケさんとザハークは一緒に鍛冶を行っています」
「か、鍛冶……ですか?」
「えぇ、その通りです。趣味に没頭している、といったところですね。私も合間合間に錬金術を行っていますので」
「あ、そうなん……ですね」
初知り情報を聞き、動きが鈍くなってしまう受付嬢。
ただ、冒険者が兼業の様な形で鍛冶や錬金術を行うのは非常に珍しいので、受付嬢や周りの冒険者が驚くのも無理はない。
「それでは、失礼します」
「あ、はい! お気を付けて」
これ以上話すこともないので、フォレストタイガーの毛皮を手に入れる為に中級者向けダンジョンの二十一階層に向かう。
ギルド内にいた冒険者たちは是非、ミレアナと一緒にダンジョンを攻略したいと考えている者が多数いたが、実際に冷気を向けられた者の話もあり、最終的に誰も話しかけることはなかった。
「なるべく早く見つかると良いですね」
さくっとフォレストタイガーを発見して討伐し、ソウスケに受付嬢から伝えられた内容を話す。
フォレストタイガー自体はミレアナの手に掛かればちょちょいのちょいで倒せるので、強さは大した問題ではない。
だが、フォレストタイガーは森の中では隠蔽力が高い。
ミレアナも感知力には優れているが、ミレアナの力に恐れを抱いたフォレストタイガーが本気で隠れ、逃げればミレアナの目から逃れられる可能性はある。
そして個体数もそこまで大量ではないので、ミレアナが一人で探索していてもそう簡単には見つからない。
「グリーンキャタピラーじゃないんですよね」
お目当てではないモンスターが襲ってくるも、きっちりと仕留めていく。
「思ったより中々見つかりませんね。敵意や殺気を完全に消せばすぐに襲ってくると思ったのですが……もしかして、観察力に長けた個体がいるのでしょうか?」
なんてことを考えながら解体を行うミレアナだが、そんなことはなかった。
単純に現在ミレアナが探索している階層には少し前に存在したが、他の同業者が数の利を生かして討伐してしまった。
だが、ここまだモンスターと罠、人を誘惑する宝箱が無数に現れるダンジョン。
一時的にあるモンスターがいなくなろうとも、いずれ再び出現する。
そう、出現する筈なのだが……ミレアナが探索を始めてから一日が経ったが、一体もフォレストタイガーを見つけることが出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます