五百九十九話 一緒に出来るなら

「さて、今日も頑張りましょう」


特に大きな目標を達成しようという気力はないが、それでもなんとなく口にした。

そしてそのままダンジョンに直行……ではなく、なんとなく冒険者ギルドに向かった。


「……失敗しましたね。まだ少し数が多い」


ミレアナはソウスケと違って、八時間から九時間もなれば十分に満足。

二度寝をしたとしても、それぐらい寝れば問題無い。


なので、普段と比べてかなり早く冒険者ギルドに着いてしまった。

朝早いと、冒険者ギルドには割の良い依頼を求めて多くの冒険者が現れる。

金はたくさんあって困る者ではないので、ルーキーやベテラン関係無しに冒険者が集まる。


人が多いと、それだけミレアナに多くの視線が集まる。

そうなってしまうのが必然と解っていても、それらの視線に対して嫌悪感が消えるわけではない。


(好奇などの視線は構いませんが、性の対象として向けられる視線はやはり気持ち悪いですね)


可能であれば、氷の矢で額を貫きたい。

なんて考えながらもゆったりとした足取りでクエストボードに近づく。


ミレアナに視線を向け、コソコソと話す者が増える。

ミレアナがソウスケやザハーク以外の者とはパーティーを組まない、そしてダンジョンには一人で潜るという情報が冒険者たちの間に広まっており、幸いにも自分たちと一緒に依頼を受けようと声を掛ける者は現れなかった。


「……これにしましょう」


選んだ依頼はフォレストタイガーの毛皮が欲しいという依頼。

達成料金は金貨五十枚。


毛皮の状態によって、多少の上下はある。

しかし、それでも達成金額はおおよそ金貨七十枚。

かなりの高額。


だが、フォレストタイガーのランクはC。

そして群れて行動する場合もあるので、依頼達成額は必然的に高くなる。

毛皮は一頭分でいいのだが、複数で襲われる可能性を考えると金貨七十枚でも少々厳しいと考える者が多い。


なのだが、迷うことなくその依頼書に手を伸ばして、受付へと向かった。


(そうえいば、やけにスムーズに先頭へ進めましたね)


特に気にせずクエストボードへ進んだが、まるでモーゼの十戒の様に割の良い依頼書を手に入れようとしていた冒険者たちが、少々恐れるような感情を向けながら退いた。


この際、ミレアナは特に殺気や敵意、冷気は放っていなかった。

しかし過去にミレアナへ声をかけようとした冒険者の中で、その冷気を受けた者たちが「首を刎ねられるかと思った」という感想を同僚に漏らしたことがあった。


実際にミレアナにはそんな物騒なことを行う気はさらさらなかった。

だが、放たれた冷気に対して向けられた者がどう思うのか、それは本人の勝手。


ルーキーやベテランなど経歴関係無しに、ミレアナが通る道を塞がないように道を開けた。


「この依頼を受けます」


「か、かしこまりました。あっ、えっと……ミレアナさん、お時間大丈夫ですか」


「えぇ、少しであれば問題ありません」


「そ、そうですか」


ホッと一息ついた受付嬢は上から通達された内容をミレアナに伝える。


「ミレアナさん、ギルドの方からDランクへの昇格試験を受けてほしいと」


「昇格試験、ですか……それは強制なのですか?」


こう尋ねる冒険者は非常に珍しい。

なぜなら、多くの冒険者たちはランクを上げたいと思い、日々冒険しているから。


ランクは冒険者の実力を表す一つのステータス。

ランクアップを望まない冒険者など、まずいない。


しかしミレアナは珍しく、ランクアップに興味がない冒険者。

深い事情があってランクアップしたくない、などという訳もない。


(……この人は私のランクアップしてほしいのでしょうね)


ギルドに買取を頼む素材からして、ミレアナがランク以上の強さを持っているのは確実。

それは受付嬢も知っているので、普段通りの態度で伝えるのではなく、自然にお願いする態度になってしまう。


「……それは、私だけではなくソウスケさんも同じくランクアップ出来るのでしょうか」


ランクアップにはソウスケと同じく、さほど興味はない。

してもしなくても、どちらでもない。


ミレアナにとって重要なのは、ソウスケと一緒にランクアップ出来るか否かだった。

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