六百二話 見せてない力は解らない
フォレストタイガーの毛皮を手に入れる為にダンジョンに潜り始めてから数日後、結局二十九階層まで降りていた。
「今回はボス部屋に入って倒そうとは思っていないのですが……フォレストタイガーを倒し終えたら、そのまま倒すのもありですね」
トレントやエルダートレントの素材と魔石は大量にあって困る物ではない。
素材の木は杖の材料として扱うだけではなく、矢の材料としても使える。
売ればそれなの値段にもなるので、無駄なところが全くない。
しかしそうこうしているうちに、ようやくフォレストタイガーと遭遇することに成功。
ただし……遭遇した数は三体。
普通の冒険者であれば、討伐依頼を受けていたとしても逃走を視野に入れる。
(発見できたのは嬉しいですが、いきなり三体ですか……どうせなら一体だけでよかったので、もう少し早めに現れてくれると嬉しかったですね)
Cランクのフォレストタイガーが三体。
数という力を考えれば、戦力的にはBランクに匹敵してもおかしくない。
「「グルゥゥアアアッ!!!!」」
「血気盛んですね」
三体のうち、二体が身体強化を発動すると同時に襲い掛かる。
重要な武器である爪には魔力が纏われており、ミレアナを殺す気満々なのが窺える。
だが、ミレアナの意識はそんな二体のフォレストタイガーではなく、奥に静観しているフォレストタイガーに向いていた。
(フォレストタイガーなのは間違いないと思いますが、それでも他の二体と比べて明らかに体が大きいですね)
体色や模様は現在ミレアナを切り裂き、噛みちぎろうとしているフォレストタイガーと変わらないが、体は二回りほど大きい。
(ギリギリBランクに届くか否かといったところでしょうか? 体が大きい分、身体能力は他のフォレストタイガーより高いでしょう)
他の個体と比べてちょっと大きい?
なんてレベルではなく、ハッキリと他と比べて大きいというのが見て分かる。
「グルルルゥアアアアッ!!!!」
一体がこのままでは埒が明かないと思い、四肢に風の魔力を纏い始める。
風の恩恵を受けた足は脚力が上がり、先程よりも速く動くのだが……それでもミレアナは淡々と攻撃を躱す。
もう一体も同じように斬撃力と脚力を上げるが、それでも風爪がミレアナに当ることはない。
確かに動き、攻撃のスピードは上がった。
しかし爪による攻撃は斜め、横の払い。そして前に突き出して引っかく。
それぐらいしかなく、他の咬みつきも動きが非常に読みやすい。
唯一ミレアナが少々厄介だと感じる攻撃は、爪撃とみせかけて風の刃を放つフェイク攻撃。
この流れに関しては非常に洗礼されており、ミレアナでも反応が遅れる場合がある。
ただ、それでもフォレストタイガーと同じく手に風の魔力を纏わせておけば、後出しで対応することが出来る。
(他二体と私の戦いを観て、冷静に実力を分析しているのでしょうね……虎系のモンスターにしては非常に良い頭を持っていますね)
同族を従え、まずは部下と敵を戦わせる。
そして相手の戦力を見極めてから、自分も参戦するか否かを決める。
(強くなければ同族を従えるのは無理でしょうし、その体に見合った実力はあるのでしょうが……やはり正確に見極めることは無理なのでしょうね)
実際に我前の敵を見て、実力を判断する目はあったとしても、表に出していない実力を把握するのは不可能であった。
(このまま下まで行こうと決めましたし、そろそろ動くとしましょう)
回避だけに徹していたミレアナが動き始めた。
「ふっ!!!!」
両足から繰り出される爪撃を回避し、弾速をマックスまで高めた風の弾丸を発射。
放たれた風弾は脳天を貫き、そのまま木々を何本も貫いた。
「はっ!!!!」
いつの間にか後方に回っていたフォレストタイガーは仲間が殺されたことに見向きもせず、風爪を全力で繰り出す。
だが、ピッタリのタイミングで風を纏った蹴りが風爪を弾く。
そして風を纏った貫手を放ち、魔力が変形。
そのまま剣となった風剣は見事に喉を貫いた。
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