五百五十九話 伐採伐採

「さて、ようやく俺らの番だな。トレントは俺たちが始末するから、気にせず戦ってくれ」


「ありがとうございます」


準備万端、いつでも戦える。

そんな状態で扉のロックが解除され、三人はボス部屋の中へと入って行った。


すると……中にはエルダートレントしかいなかった。


「あれ? この前は確かにトレントが複数いたよな」


「そうですね……血の跡がありますが、死体はない。おそらくエルダートレントには敵わないと分かり、帰還石を使って地上に戻ったのでしょう」


「なるほど、それは良い判断だな」


事実、ソウスケたちの前に並んでいたパーティーは取り巻きのトレントを倒すことに成功はしたが、エルダートレントに決定打を与えることが出来ず、帰還石を使用して入口へと戻った。


「エルダートレントはまだまだ戦えるって感じだな」


「標的がエルダートレントだけとは……都合が良いですね」


身体強化を使用し、風の魔力を見に纏う。

そして弓を構え、いざ勝負。


「ッ……」


自分に挑んできた敵はエルフの女のみ。

後ろの二人は自分に敵意を向けていないと判断し、ミレアナだけの標的を定て無数の鋭い枝で攻撃。


「数だけは多いですね」


複数の風の矢が放たれ、枝よりも速い速度で縦横無尽に動き、枝の根元を狩るように動き回る。


「……これぐらいの魔力だと、四度ほどが限界のようですね」


風矢は一度枝を破壊しただけでは消えず、四度も迫りくる枝を破壊。

しかし一度学んだエルダートレントはただの枝では倒せる敵ではないと解り、操る枝に風の魔力を纏い始めた。


「さすがエルダートレント。切り替えが早いですね。ですが……それを続けても良いのですか?」


問うても答えは帰って来ない。

戦況は先程とは変わってエルダートレントが有利な状況が続く。


ミレアナも風矢で枝の破壊を行うが、傍から見れば防戦一方に観える状況。

だが、ここで一つ状況が変わり始めていた。


なんと、砕け散っていたトレントの死体が全て回収されていた。


全体的に見て魔法よりの力を持つエルダートレント。

故に、魔力量は他のモンスターと比べて多い。


現時点でもまだ魔力量に余裕はある。

余裕はあるのだが……エルダートレントは己の魔力が少なくなれば、転がっているトレントや周囲の木々の魔力や生命力を奪うことで再生、もしくは魔力を補充しようと考えていた。


だが、ミレアナから意識を一瞬逸らして周囲に向けた瞬間、トレントの死体は全て消えており、周囲に無数に生えていた木々すら株を残して上は全て消えていた。


「はっはっは! ザハーク、今エルダートレントが驚いた表情をしたと思ったんだが、俺の気せいか?」


「いや、確かに驚いた表情をしていた。自分がつわものと戦っている間に周囲がこの様な状況になていれば、驚くのも無理は無いだろう」


ボス部屋はそれなりに広いので全ての木々を回収するのは無理……と思われるかもしれないが、一先ず斬ってしまうことは可能。


風の刃と水の刃が次々と木を斬り倒し、亜空間の中に入れていく。

自分の栄養となる木々が次々に消えていく。

それを知ったエルダートレントは急いで残っている木々から生命力を奪い始める。


「おっと、完全に気付かれたか」


エルダートレントが木々から生命力を奪い始めた瞬間に二人は木々の伐採を止め、大人しく静観する。

だが、慌てて周囲の木々から生命力を奪い、魔力を回復しようとしたのが仇となった。


「私を相手にしているというのに、木々から生命力を奪うことに集中してしまうとは……愚かですね」


戦闘経験が不足しているから仕方ないといえばそれまで。

風の魔力を一気に集中させ、特大の風矢がエルダートレントに向かって放たれた。


慌てて周囲の木々を前面に移動させてガードしようとするが、即席の盾がミレアナの矢を防ぐことは不可能。


綺麗に突破され、エルダートレントの魔石がある周辺を撃ち抜いた。


矢は正確には筒状に飛ばされ、魔石には一切傷はついていない。

第二の心臓周辺が切り抜かれた。


その僅かな隙を狙い、地を蹴って駆ける。

風の魔力で強化されたミレアナの脚にエルダートレントの反応速度は勝てず、そのまま魔石は体から押し出されてしまった。


「これで終わりですね」


いかに再生能力があろうと、魔石を抜き出されてしまったモンスターは生命活動を停止する。

それはエルダートレントにも勿論適用され、完全に動かなくなった。

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