五百五十八話 バカではないはず

「やっぱりボス部屋の前にはいつも人がいるな」


日が暮れる前には最下層のボス部屋に到着した。

探せばいるだろうが、この中級ダンジョンの二十一階層から三十階層まで最短時間で降りたのはソウスケたちのパーティーが一番。


そこまでわざわざ攻略を急ぐ理由がないので、三人の様なタイムアタックに近い感覚で降りるパーティーは今までいなかった。


「どうしますか、ソウスケさん。交渉して順番を譲って貰いますか?」


「……別にそこまでしなくても良いかな。どれだけ攻略に時間が掛かったとしても、十分からニ十分あれば終わるだろ。それを考えれば、急ぐ必要はない」


ソウスケたちの前には四組のパーティーが並んでいる。


(視たところ……クリアしそうなパーティー、失敗しそうなパーティー半々ってところか)


トレントやエルダートレントは火属性の攻撃に弱いという欠点はあるが、エルダートレントは欠点を突いたからといって、簡単に倒せるモンスターではない。


手数や使用する風魔法と木魔法の練度の高さ、そして再生速度の速さ……どれをとってもトレントとはレベルが違う。


ボス部屋の中にはエルダートレント意外にも複数のトレントが存在しており、そのトレントを余裕で倒せる力なければ、エルダートレントを全員無事という状態で倒すのは厳しい。


(よっぽど冷徹だったり、自分本位な冒険者でなければ仮にボスを倒せたとしても、仲間が無くなれば素直に喜べないだろうな)


中級者向けの最下層のボス部屋はCランクの冒険者パーティーでも倒せると言われているが、一つのパーティーだけで倒すには限りなくBランクに近い実力を持つ面子でなければ全員生きた状態で倒すのは難しい。


「ソウスケさん、四つの内……いくつのパーティーが生き残れると思いますか」


「う~~ん……どうだろうな。半分ぐらいは生き残る……場合によっては全て生き残るだろ。戦う前にしっかりと準備を行い、冷静な判断が下せる冒険者なら、な」


帰還石を使用すれば、一瞬でダンジョンの入り口まで戻ることが出来る。

だが、その代わり帰還石の値段はかなり高い。


売れば高価な武器やマジックアイテムが買えるほどの価値がある。

なので、これからの活動費に変えてしまう者もいる・


しかし危機的状況から一瞬で安全地帯に戻れる、それは冒険者にとって……ダンジョンで活動する者にとって命を守る行為。


考え無しの馬鹿や、危機感を全く持っていない者でなければ偶然手に入れた帰還石を売るような真似はしない。


「……私の経験上、そこまで考えて行動している冒険者多くないと思うのですが」


「は、ははは。そうかもしれないけど、俺は前のパーティーたちを見る限り、結構考えて行動してる人たちだと思うぞ」


鑑定は使っていないが、全員がCランク冒険者。中にはBランクの者もいる。

見た目や雰囲気だけで判断するのは悪手だが、パッと見た感じ準備を怠る同業者には見えない。


「……良く視ればまともそうな人たちでした。なら、生きて地上に戻れる同業者の方が多いかもしれませんね」


「ザハークはどう思う?」


「俺は……まぁ、生き残る連中の方が多いんじゃないのか? 装備している武器もいくつか気になる物がある」


鍛冶のスキルを有し、実際に鍛冶を行うザハークの武器を視る目は肥えている。

そんなザハークから視ても、ボス戦で役立ちそうな装備を身に着けている冒険者がチラホラといた。


「買ったから宝箱から手に入れたかは知らないが、しっかりと準備してる連中だと思うぞ」


三人ともかなり上から目線で喋っているが、それに咬みつく者はいなかった。

ボス戦前なので精神を統一させたいという気持ちもあるが、パッと見でミレアナとザハークには挑んでも敵わないと本能的に察知。


そんな二人からさん付けで呼ばれている少年が何者なのか、どこか不気味さを感じて関わろうとする者は一人も現れなかった。


(……ちょっとは絡んでくる奴がいるかもしれないと思ったけど、存外そんなことはなかったな。これならボス戦までリラックスして過ごせそうだ)


土魔法でテーブルを生み出し、三人は自分たちの番になるまで延々とリバーシで遊び続けた。

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