五百六十話 臨時教師が終わったら
「お疲れ様、ミレアナ」
「楽勝だったな」
「ありがとうございます。お二人のお陰で楽に倒せました」
もう少し倒すのに時間が掛かると予想していたが、ソウスケとザハークがトレントの死体を回収。
そして周囲の木々を圧倒的な速さで伐採と回収を行い、エルダートレントに大きな衝撃を与えた。
その隙を見逃すほどミレアナは甘くなく、つい完全に仕留めるつもりで攻撃してしまった。
本人としてはもう少しレベルが高い戦闘を続けて、それなりに本気で戦う勘を取り戻そうと思っていた。
だが、その本音を零そうとは思わない。
(……単純に回復作業を行われては泥死合。それを考えれば、お二人がトレントの死体や周囲の木々を回収してくれたことには感謝しかない。惜しむなら、大きな隙を見て即座に反応してしまった私の腕でしょう)
隙を見逃さずに仕留める。それは冒険者にって必須の動き。
だが、今回一人でエルダートレントと戦おうと思った目的は戦闘の勘を取り戻すため。
(エルダートレントぐらいなら、直ぐに殺さなくても大丈夫でしたが……この街の滞在期間はまだまだ長い。また次の機会にしましょう)
Bランクのエルダートレントを相手に、思い上がった感情を持っている。
そう思われるであろう感想だが、実際のところ……ソウスケとザハークの二人が傍にいるという状況を考えれば、Bランク程度の相手に焦る必要はない。
「エルダートレントって確か杖の素材として使えるよな」
「そうですね。魔石を逆として扱えば、それなりに高価で高性能な杖になると思いますよ」
木工と錬金術のスキルを持っているソウスケは武器や防具だけではなく、杖まで作ることが出来る。
それもどこにでも売っている様な安っぽい杖ではなく、それなりに高い値段が付く一級品の杖。
「……今度そういうのも作ってみるか」
「ソウスケ、俺はそろそろ鍛冶をしたい。時間が空き過ぎると腕が鈍るからな」
「確かにそうだな……よし、臨時教師の仕事が終わったらちょっと鍛冶の時間をつくるか」
「それなら、私はその間前回と同じように適当なパーティーと組んでダンジョンに潜りますね」
「あぁ、勿論自由にしてて良いぞ。ただ……いや、別に良いか」
出かかった言葉を飲み込んだが、ミレアナはその内容が気になった。
「どうしたのですか」
「いや、別に上級者向けのダンジョンに潜ってても良いぞってだけだ」
「……そちらは良く考えてから判断します」
他のパーティーから誘われても、安易にオーケーはしない。
その回答にソウスケとザハークは驚き固まった。
「…………なんでだ? 上級者向けのダンジョンに興味がないのか?」
二人は俄然興味がある。
ミレアナも興味がない訳ではないが、自分が他の同業者と組んで潜るのは抵抗があった。
「私はソウスケさんの様になんでもは出来ません。この中級者向けのダンジョンであれば万が一が起こっても対処出来ると思いますが、上級者向けのダンジョンであれば万が一があります」
「潜る階層によってはそうかもしれないな……まぁ、そうだな。万が一が起きてミレアナに何かが降りかかるのは嫌ってのは確かだ。それに……多分だけど、ミレアナより強い冒険者ってこの街にいない気がするんだけど……ザハークはどう思う?」
「……探せばいるかもしれないが、その様な強者たちと運良く組んで潜れるかは分からない。大半の冒険者はミレアナより下だろう。それらと万が一の危険性を考えれば、確かに上級者向けのダンジョンに潜るのは良くないかもしれないな」
「だよな……分かった。でも、中級者向けのダンジョンでも何が起こるか分からないし、気を付けてくれよ」
「えぇ、勿論気を付けて行動します」
中級者向けのダンジョンで自分に敵うモンスターはいない。
なんて思っているミレアナだが、トラップなどは中々油断ならないと認識している。
(転移系のトラップは厄介だと前回の探索で身をもって体験しました。今度は同業者と組むかもしれませんし、その辺りは気を付けないといけませんね)
臨時教師後の予定が決まった三人はエルダートレントの死体と、ボス撃破の報酬として現れた宝箱を回収して地上へと戻った。
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