五百三十五話 ボス戦前にメンタルボロボロ

「ふむ……やはりボス部屋の前には他のパーティーが並んでいるのだな」


「運次第だけど、この都市は他の街よりも冒険者が多い。だから必然的にボス部屋まで辿り着ける冒険者も多いんだろう」


圧倒的な脚力とスタミナで二十一階層から降り続けたソウスケたちの前には四組のパーティーが並んでおり、腹ごしらえをしたり武器の整備をしていた。


後方からやって来たソウスケたちに一瞬視線を向けるが、直ぐに目を逸らす。


「……ザハーク、そんなに凄む必要はないんだぞ」


「いいや、ここまで降りて来る冒険者なら、大なり小なり自身の実力に自信を持っている筈だ。そういう奴らこそ……ソウスケさんに絡もうとする」


ザハークの言葉を聞いて何名かが図星を突かれ、肩が震える。

これからダンジョンのラスボスに挑む。そんな場所にアンバランスなパーティーがやって来た。


三人の中には一人……完全に見た目が子供である冒険者がいた。


ここまで降りて来るのに、決して苦労が無かった訳ではない。

だが、新たに現れたパーティーは無傷。そして表情に余裕が現れている。


完全に苛立ちを他者にぶつけるという最低な行為だ。

それでも理性が苛立ちをぶっ壊し、ソウスケに絡もうとしたが……その思いは一瞬で壊された。


「ザハークの言う通りですよ、ソウスケさん。自分の感情しか頭にない馬鹿な者たちはソウスケさんが一切悪いことをしていなくとも、自分の苛立ちを発散したいが為に絡む者です」


グサグサグサ、という音が聞こえた。

実際にそのような音が聞こえてはいないのだが、何故か耳に入ってきた。


(二人共容赦ないな……心当たりがありそうな冒険者たちの肩が目に見えて沈んでるぞ)


矢と槍で刺された冒険者たちは一言二言ぐらい言い返したい気持ちだったが、ザハークとミレアナから放たれている圧に怖気づき、何も言い返せなかった。


「自分達の苛立ちを他者にぶつける、か……その苛立ちはダンジョンに入った故に生まれた感情。ならばダンジョンに向けて発散するのが筋だと思うが……まぁ、実力不足の奴らにはそれが出来ないということか」


もう二・三発、一瞬でもソウスケに絡もうと考えた冒険者たちの背中に矢が刺さる。


「ダンジョンに苛立ちをぶつける実力がないからこそ、モンスターやトラップにやられて苛立ちが溜まるのですよ」


「なるほど。弱者にその苛立ちをぶつけようと思うのは必然となってしまうのか。なんとも可哀そうな連中だな。ソウスケさんが弱者という点がそもそも間違っているのだがな」


二人は可哀そうな連中の体力がゼロになる程に言葉でボコボコにした。

パーティーメンバーが慰めようとするが、完全に図星なので本人のメンタルは風前の灯火となっている。


(なんか……二人共結構楽しんでる? 確かに俺の見た目が原因で馬鹿共が絶えず絡んで来ようとするのは事実だしな……俺一人の時ならまだしも、ザハークとミレアナが傍にいるんだから変な気を起こさなければ良いのに)


ザハークとミレアナはソウスケとは違い、一目で強者と他者に解らせる容姿を持っている。

そんな二人がソウスケの仲間。であれば、仮にソウスケをボコボコにすれば、報復として二人が襲い掛かるのは少し考えれば直ぐに解る。


(いくら連中が脳筋だとしても、それぐらいは解ると思うんだが……ダンジョンに潜り過ぎて、そこら辺の判断が正常に出来なくなったのか?)


後先考えずに行動してしまう。

冒険者全体をみれば、そういう部分がある。


その勢いは悪くない。

だが、一旦立ち止まって物事を考えることも必要。


という事ぐらいはベテランの領域に到達すれば解るのだが、それを実行出来るか否かはまた話が別であった。


「二人共、そこら辺にしてやれ。二人がメンタルをボコボコにし過ぎてボス戦で死ぬかもしれないだろ」


「それならばそこまでの人だったということですよ。図星を突かれて凹むなんて……最初から直しておけば良い話ですよ」


「ミレアナに同意だな。そもそも標的が弱者に見えたから絡んでやろうと思ってしまう時点で、たかが知れている。中に好意でボス部屋に挑むのはまだ早いと止めようと思った人物はいないだろう。そういうのを確か……人間性が終わってると言うんだったか?」


ソウスケに悪意を持つ人物には全く容赦がない二人だった。

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