五百十四話 在籍していたのが重要

「す、凄い量ですね」


「結構貯め込んでたんでそれなりの量になりましたね」


ソウスケを解体所まで案内した受付嬢だけではなく、解体をする為に集まった解体士たちも驚きのあまり思わず固まってしまった。


「ぼ、坊主……もしかしてそっちのエルフの姉ちゃんと二人で倒したのか!?」


「いや、外で待ってるオーガの従魔にも手伝ってもらいましたよ。ザハークは普通のオーガとは違うんでそこら辺のモンスターなら余裕で倒せるんですよ」


「そ、そうか」


予想外の謙虚な対応にも驚いたが、やはり従魔の戦力があったとしても三人で倒したとは考えにくいモンスターの死体の量。


(もしかしたらこの坊主が予想外にも強者なのかもしれないな)


戦闘経験が殆ど無い解体士だが、直感的にソウスケが見た目よりも強いと感じ取った。


「どれぐらい掛かりますか?」


「今日は結構人数がいるからな……一時間もあれば十分だ」


「分かりました。それじゃ、一時間後にまた来ますね」


そこで一旦ギルドから離れ、一時間経つまで外でブラブラしていた。


「ソウスケさん、中で変な奴に絡まれなかったか?」


「ミレアナがいるから平気だったよ」


「ギルドの中には基本的にザハークは入れませんからね。私がソウスケさんをチンピラたちから守ります」


ソウスケはチンピラたちに負けるほど弱くはないのだが、ミレアナとしては関わるだけ時間の無駄であるチンピラとソウスケを関わらせたくない。


「……やっぱり良いよな」


「学生がですか?」


「あぁ。やっぱりなんだかんだ言って楽しそうだなって思うんだよ」


学校というのは上手く過ごせば楽しい場所になる。

家にいるより学校にいる方が楽しいと思う学生はこの世界にもソウスケが生まれた世界にも一定数存在する。


元の世界ではまり上手く過ごせていなかったが、この世界に来て確かな実力を身に着けて自身が付いてきた今なら楽しく過ごせるかもしれない。


そう思ってしまう自分がいた。


「……ソウスケさんなら通えると思いますよ」


「いや、でも俺は現役の冒険者だぞ」


「だとしても、それが理由で受験を受けられないとは限りません。文字の読み書きは出来ますので受験に出てくる内容を覚えれば大丈夫ですよ。戦力面の実技は問題無くぶっちぎりの成績を叩き出せるでしょうし」


「そこまで意図的に目立とうとは思わないが……でも、現役冒険者ってだけでそもそも注目されるか」


「かもしれませんね。それに、学園としては大金が入る……もしくは実力者が在籍していたという事実があれば万々歳になるでしょう」


「は、ははは。かもしれないな」


大人には大人の事情がある。

それが垣間見える会話だ。


しかし学校に通うとなれば遠出の依頼が受けられなくなる。

そして……ザハークにとっては強敵との死闘回数が減ってしまう。


「でもさ、ザハークとしてはつまらないだろ。仮に俺達が一年間だけ学校に通うとしても……一年間はこの街から遠出することはないんだぞ」


「それはそうだが……この街には上級者向けのダンジョンがあるじゃないか。それを考えればあまり退屈しないかもしれないな」


「あっ……そういえばそうだったな。でも従魔であるザハークが俺やミレアナの目が届かない場所で動いてたら……それはそれで不味い気がするな」


「そう、ですね……それなりに不味いかもしれません」


ザハークは人の言葉を喋ることが出来る。

そして簡単な料理なども自分で出来るので、ダンジョン内を一人で探索するのはなにも問題無い。


ただ、ソウスケとミレアナがいない状況で問題が起こった場合はどうするか……それが少々面倒なのだ。


(……最悪ダンジョン内で相手から突っ掛かってきた場合、潰してそのまま置いていけば証拠は消えるんだけどな)


ザハークが自ら喧嘩を売りに行くことはないと解っているが、相手さんから喧嘩を売ってくる可能性は大いにある。


「そうか……だが、一年ぐらいであれば我慢出来るぞ。学校で行われる授業とやらが終わればダンジョンに潜れるのだろう。それなりに強い奴らがいる階層に転移すれば退屈はしない筈だ」


「そうか? ……まぁ、学校に入学するかどうか決めるのはまだまだ先だ」


三人にはまだ上級者向けのダンジョンをクリアしていないので、まずはそのダンジョンを攻略するのが一番の目標だ。

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