五百十三話 ザハークに代わって

「話にならないな」


十階層のボスモンスター、ブラウンベアが二体。

Eランクのモンスターの中でも力に特化しているモンスター。


しかしそんな熊系モンスターもザハークの魔力を纏った石ころの投擲一発で戦いは終わった。


「遊ばなくて良かったのか」


「ブラウンベアではなぁ……正直遊ぶ気にはならない。もっと上にモンスターなら遊んでも良かったが、遊んだところで大して楽しめないだろ」


「はっはっは! そうかもな。宝箱は……後で解錠するか」


亜空間に宝箱をしまい、三人は十階層まで来たので一旦地上へ戻った。


「むぅ……なんだか十階層までだとあんまり楽しめないな」


「中級者向けのダンジョンでも十階層までだからな。ザハークが楽しめる戦いが出来る相手はそう多くないだろ」


「かもしれないな。明日の昼は軽く模擬戦するか」


「良いのか? それならある程度暴れられるな」


「ほどほどに頼むぜ」


十階層から戻ってきた二人の会話に嫉妬する者達が多いが、ザハークの見た目からな放たれる圧に対して強気な態度で絡めない。


いつも通りミレアナの容姿に惹かれる男性達もいるが、ザハークの見た目に怯えて話しかける勇気が湧かない。


「面倒な人達が絡んでこないのは好ましいですね」


「ザハークがいるからな。この一目で強者って解かる見たがそこら辺の人達には効くんだろ」


「俺の見た目はやっぱりそんな怖いか?」


怖い……というよりはカッコイイに近いとソウスケは思っている。

ミレアナもソウスケと同じ考えだ。


幼い子供達も初めてザハークを見た時、怖いという気持ちよりもカッコいいという思いが勝って絡もうとする。


「良い意味で厳ついかもな」


「かもしれませんね」


「良い意味でか……それなら構わないか」


「ところでソウスケさん、溜まった死体はどうしますか?」


ソウスケの亜空間には多くのモンスターの死体が入っている。

ソウスケとミレアナの二人で解体を進めれば良いペースで処理をすれば片付くが、それなりの時間が掛かってしまう。


「……ギルドに頼むか」


転移したダンジョンで倒しまくったモンスターを一度ギルドに預け、全て解体してもらったことがある。

ギルドに手数料を引かれてしまうが、自分達の労力を使わずに丁寧に解体してもらえる。


「手数料が引かれてしまうが良いのですか?」


「別に良いよ。そこまで大金を取られる訳じゃない。それにお金には大して困ってないし」


その一言に話が軽く耳に入っていた者達が反応してしまう。

鬼の様な形相で「世の中舐めてんじゃねぇーぞ!!」といった表情で三人を睨みつけるが、戦闘職の者達はソウスケ達が身に着ける装備が並でないことが解る。


そして、感覚が鋭い者は三人の実力そのものが並でないことも分かってしまう。


それ故にソウスケの不用意な発言に反抗して絡めない。


「丁度夕方だったからか、人が多いな」


冒険から帰ってきた冒険者達が多く、ギルドの中には百近い冒険者達がいた。

そんな中でもやはり外と同様に、ミレアナとソウスケの凸凹コンビは目立つ。


だが、今回はミレアナがザハークに代わって少々戦意を溢れ出し続ける事で、下手にナンパしようとする者は現れずに受付まで辿り着くことが出来た。


「すみません、解体して欲しいモンスターの死体があるんで、解体を頼んでも良いですか」


「かしこまりました。ギルドで解体する場合は査定額の一割を手数料として頂きますがよろしいでしょうか」


「大丈夫です、よろしくお願いします」


「分かりました、それではこちらにお越しください」


ギルドに解体を頼む。それは決して珍しくはない。

だが……この凸凹コンビが頼むということに周囲の冒険者達の興味が動く。


二人が解体がまともに出来ないほど不器用には思えない。


それなら本当にギルドの手を借りたいほどの数のモンスターを倒したのか……それが解らない。

この街に来てからそれほど時間が経ってない二人の実力を知る者は殆どいない。


「それではこちらにモンスターの死体を出してください」


「分かりました」


指定された場所にソウスケは遠慮なくモンスターの死体を出した。


「えっ!」


思わず……本当に無意識のうちに、受付嬢を驚きの言葉を漏らしてしまった。

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