四百四十八話 色々と考えろ

「……中々美味しいですね」


露店で売っていた焼き鳥を食べながら次の目的地に向かうミレアナ。

冒険で役立つ衣服を探しているが、中々良さそうな店は見つからず、仕方なくアクセサリーを買った店と同じく高級店を探す。


「あれは……」


そう思った矢先、宜しくない現場がミレアナの眼に入った。


「なぁ、良いだろ。俺達とちょっとお茶しようぜ」


「お断りします。私達は女性同士でお茶がしたいのです」


片方は見るからに冒険者と解る格好をした男三人、お茶という言葉が中々に似合わない。

もう片方は学生服を着た三人の女学生。そのうち二人は腰に細剣を携帯している。


(この街に貴族の学校があるとは聞いていませんし……もしかして休日を利用してここに来ているのでしょうか? もし喧嘩になったら……実力はどっこいどっこいでしょうか?)


生まれ持った才なら貴族の令嬢である女学生の三人が冒険者達より上だが、モンスターや生死を賭けた対人戦ならば冒険者達の方が経験数は上。


(視た感じ普通に戦える人達ですし、あんな嫌がられる真似をしてまでナンパする必要は無いと思うのですが)


ミレアナの眼が正しければ、男達が装備している武器はそこそこの性能を持つ有能な武器。

そして男達はその性能に頼る様な実力不足には見えない。


(……これは女学生の方が分が悪いでしょうね)


両者がヒートアップし始めているのを確認したミレアナはため息を吐きながら近づいて行く。


(普段の身なりでナンパする同業者の方達もまず色々と駄目ですが、女学生の方達も強気な態度で対応する以外にもやりようはあるでしょうに)


貴族としてのプライドがそれを許さないのか解らないが、ミレアナはもう少し自分の身を案じて欲しかった。


「双方とも、そこまでにしたらどうですか」


「……エルフの姉ちゃん、俺達は今ただお茶に誘ってるだけなんだ。邪魔しないでくれるか」


「ただお茶に誘っている……それにしては随分とヒートアップし過ぎでは無いですか? それと彼女達はおそらく貴族の令嬢。ならば、ナンパするにしてもそれ相応の格好という物があると思いますが」


男達は普段冒険に出る格好と殆ど変わらない。

その恰好で女性をナンパするには少々無理がある。


(せめて普段着、貴族の令嬢をナンパするのであれば上等な正装でなければ無理だと思いますが)


ただ、大前提として冒険者達のレベルがそんなに高くなかった。

冒険者の中にいれば普通だが、貴族の子息を毎日見ている女学生達にとっては下の下。


冒険者に興味がある者でなければ誘いに乗ることはまずない。


「ッ、うるせーーな。そんな俺達の勝手だろ。それともなんだ、エルフの姉ちゃんが俺らの相手してくれんのか」


「いいえ、そんなつもりはありません。ナンパというのはただ突っ込めば良いというものでは無いと言ってるのです。学校では見た目が整った貴族の子息達との交流がある彼女達が何故あなた達の様な暑苦しい見た目をしている者とお茶をしたいと思うのですか? まず、そちらの魔法職の方を除いてそのザ・冒険者という格好でお茶というのが似合いません」


ミレアナにド正論突きつけられた冒険者達が一歩下がって悔しそうな顔を浮かべる。

ただ、男達も冒険者としてのプライドと面子があり、はいそうでうかと簡単に引き下がる訳にはいかない。


しかしその気持ちを粉々にするほどの実力がミレアナにはある。


「私も冒険者です。実力行使にでるなら……潰しますよ」


クールの雰囲気から一気に溢れ出す圧と殺気。

そのオーラに冒険者達だけではなく、女学生や周囲の者達も圧倒されて腰が引けてしまう。


「ッ……分かったよ、クソが」


リーダーの一人が背を向けて離れて行くのに続いて残り二人もナンパを諦めて離れて行く。


(まったく、ナンパするにも色々と考えるべきだと思いますが……まぁ、それを一般的な冒険者に求めるのは無理な話ですね)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る