四百四十九話 信用出来る

「大丈夫でしたか?」


ミレアナは冒険者達にナンパされていた女学生達の方に顔を向ける。


「あ、はい。大丈夫、です」


ナンパから助けられた女学生のリーダー的な少女は戸惑いながらも答える。

実際のところ、女学生は自分達を助けてくれる存在など現れないと思っていた。

しかしそんな人が自分達の前に現れた。


(この人・・・・・・絶対に私達より強い、ですよわね)


三人共本能的に解った。

目の前の女性が自分達よりも強いという事が。


「あなた達が戦闘訓練を受けているのは解ります。ただ、相手もモンスターや盗賊との命懸けの戦いを超えてきた相手です。不用意に敵対するのはお勧めしません」


「ッ、それはそうかもしれません。ですが、明らかにこちらが何を言っても言う事を聞かない相手でした」


「そうでしょうね。それでも、仮に戦えばあなた達が怪我を負っていたでしょう。命を賭けた戦いを超えてきた経験は、プライドを守るための戦いよりも大きな経験です」


冒険者達が女学生達の意見を聞こうとしていないというのは見ていて解かる。

ただ、だからといって敵対すれば良いのか?


両者の戦闘力と実戦の経験を考えれば否と言える。

冒険者達も街中で暴力を振るう、もしくは抜剣すればどうなるか解らない程阿呆では無い。

そう、阿呆では無い。しかし溢れる感情を理性が抑えきれるのかは話が別。


「それでもあなた達と冒険者の状況を考えれば立場はあなた達が完全に上です。なのでは彼らが非常識な人物だと叫びながらギルドに向かえば彼らはどうすることも出来ません。地面に頭を擦り付けて謝ってくるかもしれません」


今の時間は昼過ぎ。

場所は薄暗いところでは無く他にも人が歩いており、賑わっている街中。


彼らにも面子というものがある、プライド以外にも仕事面の面子が。

女学生に無理やり迫ろうとするド変態野郎。そんな話が広まれば彼らの今後の仕事に少なからず影響する。


「……私達が不用心でした。忠告ありがとうございます」


「どういたしまして。貴族の方やその子息、令嬢の方達にプライドがあるのは分かります。ただ、それと同じように冒険者にもプライドがあります。安っぽいプライドかもしれませんけどね。ただ……その分爆発しやすい」


冷めたその目に……自分の沸点も低いぞと言わんばかりの眼に女学生達は一瞬背筋が凍った。


「なので、あまり冒険者と事を構えるのはお勧めしません」


「わ、分かりました……あ、あの。一つお聞きしても宜しいでしょうか」


「はい、別に構いませんが」


女学生は先程のミレアナから放たれた威圧感に少々ドキドキしながらも尋ねる。

その内容はミレアナの実力を見込んでのもの。


「私達の依頼の護衛をして欲しいのです」


「護衛依頼、ですか・・・・・・もしかしてですが、学園の調査依頼のような内容を受けてここまで来ているのですか?」


「その通りです。正確には学園での私達の成績に関わる内容ですが」


「なるほど……とりあえずそれがどんな内容なのかは聞きますよ」


現在ミレアナ達は貴族からルージュバードの羽を取ってきて欲しいという、指名依頼を受けている。

なので女学生達からの護衛依頼を受けられるかは分からない。


「実はこの街の近くにある火山付近に珍しいモンスターが生息しているらしく、そのモンスターの生態を調査。もしくは討伐して素材を持ち帰ることが依頼です」


「火山付近に……そうですか。それは冒険者を雇う必要がありますね」


女学生達の実力が低すぎるという訳では無い。

彼女達が持つ才と幼い頃から受けてきた英才教育、それらの結果を考えればある程度の実力はあるだろう。


ただ、特定のモンスターの生息を調べたり討伐するには少々実力が足りない。


「あなたは信用出来そうな方なので是非とも護衛を依頼したいと思いました」


リーダ格の女学生に同意するように後ろの二人も頷く。


「そうですか。それは嬉しいですね。でも、パーティーのリーダーは私じゃないんですよ。それに現在他の方から依頼を受けている最中です。なので明日の正午丁度にギルドに来て貰ってもよろいしいでしょうか」


「分かりました」


そこでごねる事無く女学生達は一旦ミレアナと別れた。

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