四百三十三話 とりあえず殺しはしない

「……人が良い気分に浸ってるのに、無粋な奴らだな」


店を出てから数分後、ソウスケは自分の後を付けている存在に直ぐ気が付いた。


(別にこの街に来てから人の恨みを買う様な真似は……あぁ、ついさっきしたばかりだな)


ガッツリと人の恨みを買っていたのを思い出す。

この街に腰を下ろす商会の次男。一人の嬢に対しての指名権。

それを奪い合うために金を重ね合った。その結果、金貨三十枚という指名料にしては破格の金額を払って得た。


その次男は特に商売の才能がある訳で無く、プライドだけは一丁前。

男は店を出た後、直ぐに裏の人間を雇って潰すように命じる。


男の依頼を受けた裏の者達はゼルートの実力などは知らないが、依頼人の戦う者の雰囲気では無いという言葉を信じてとりあえず観察することにした。


確かに見た目は強者には感じない。

武器を身に着ける必要は無いと判断したソウスケはグラディウスを装備していない。


今日のうちに殺そうと思えば殺せるかもしれない。

そんな考えが浮かんだが、相手がまだどういった人物なのか正確に解っていない。

なので今日のところは泊まっている宿を突き止め、後日調査を行おういうのが裏の者達のそういだった。


「……五か」


気配感知を行って自分の後を付けている者達の数と位置を正確に把握。

そして魔力の弾丸を五つ用意し……指先を動かして五人の顎目がけて放つ。


裏の者達の腕は決して低くは無いが、それでもソウスケの実力には遠く及ばない。

自分達の存在が気付かれたと悟った者はいたが、気付いたときには気を失って地面に倒れ伏していた。


「もしかしなくてもさっきのデブ商人が雇った裏の人間だろうな」


完全な確証は無かったので殺しはしなかったが、相手と対面してうっかり依頼人を漏らした場合は完全に殺していた。


(この街ではトップクラスの商会の子息、か……まっ、特に問題は無いだろう)


冒険に必要な道具は自分で作ることが出来る。

そしてこの街に永遠と滞在する訳では無い。そんなソウスケ達にとってある程度の権力しか持たない商人の子供など取るに足らない相手。


宿へと無事戻り、上気分なままベッドに入って眠る。


翌日、いつも通り昼手前頃に起きたソウスケは朝食を終え、ミレアナとザハークと一緒に目的のモンスターを狩りに向かう。


「ソウスケさん。昨日の夜、何か面倒なことでもありましたか?」


「ん? あぁ・・・・・・まぁ、あったといえばあったな。でも別に大したことじゃない」


自分を殺そうとした者かどうかは分からないが、自分に害をなそうとする者。

しかしその技量は自分の魔力の弾丸すら躱すことが出来ない技量の持ち主達。


警戒する意味は無いとソウスケは判断を下した。


「元は面倒な奴かもしれないが、それでもそう簡単に俺達にどうこうは出来ないだろう」


「……でも、多少の危険はあるのですよね」


「かもしれないな。でも、俺達に危害を加えられる奴なんてそういないって」


「俺としては人であってもある程度の強者が襲い掛かって来るなら大歓迎だがな」


オーガの希少種であるザハークのサイズは人に近く、対人戦は不得意で無い。

そしてザハークは常に強者との戦いを望んでいる。そんなザハークにとって実力が高い暗殺者が襲ってくるなど、丁度良い対戦相手という感想しか持たない。


「ザハークはそうかもしれないけど、あんまり人がいるところでの襲撃は遠慮したいな」


「暗殺者が送られてくるならば、人気の無い街中。それと、こういった森の中でしょうね」


現在ソウスケ達は火山に向かっているが、かなり距離がある。

そして中間地点までは木々で覆われている。なので街の者達が木々の不足で悩まされる事は無い。


(火山付近まで行けばルージュバードもいるだろう)


森の中でも何度か空にバード系のモンスターを見かけるが、どれもルージュバードの特徴と一致しない。

だが、今までモンスターと一度も遭遇していない訳では無く、フォレストリザードやランドスパイダーなどのモンスターと戦っている。


どれもルーキーでは到底倒せる相手では無く、逃げ切ることすら難しい。

しかしソウスケ達にとっては腕を鈍らせない相手には丁度良く、ある程度時間を掛けて倒す。


「……狩場としては結構良さそうだよな、ここ」


「あぁ、これならBランク程度のモンスターと遭遇してもおかしく無いな」


「相変わらず好戦的だな」


子供が見れば逃げ出しそうな笑みを浮かべるザハーク。ただ、ソウスケもミレアナもそんなザハークの性格は嫌いでは無かった。


(森の中でBランクのモンスターに遭遇するかは分からないけど、火山まで行けば強敵と遭遇するかもな)

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