四百十四話 比べたところで意味は無い

加速する剣戟を後方で見ていたレアレス達はそのレベルの高さに唖然とし、固まってしまう者が多くいた。


「分かってはいたが……ここまで差があるとはな」


「そうですね。もはやAランクの領域に達していてもおかしくありません。本当に末恐ろしいルーキーです」


「シャリアの言う通りだ。だが、後輩たちに嫉妬していても、僕達の実力が上がるわけでは無い」


三人はソウスケ達の実力に嫉妬しなかったと言えば嘘になる。

ただそれでも、三人があそこまでの実力を手にれるには並では無い相手と戦い続けたからだと、明確な理由が解った。


そして三人は冒険者達の中でも腐らず向上心がある側なので、今回の依頼が終わってからも上に上がろうという気持ちは消えていない。


だが、アーガスを含めたEランク組は三人の……特にソウスケとゴブリンパラディンの戦いぶりを見て完全に自信喪失になりかけていた。

まだミレアナとザハークが圧倒的な強さでゴブリンプログラップラーとゴブリンウィザードに勝利したのは理解出来るし、納得出来ていた。


二人からはレアレス達以上の強者という存在感を感じていた。

ただ、ソウスケから自分達と同等か、寧ろそれ以下の強さしか感じていなかった。


確かに道中でのソウスケの強さを目にし、自分達ではあんな倒し方は出来ない、そう思えた。

しかしそれでも心の底では自分のすべてが負けた訳では無い、そう感じていたのだが……結果は違う。


自分達同ランクの中ではグランに次いで最強だと思っていたアーガスを一蹴するような相手とソウスケは互角に渡り合っている。

自分達の認識が完全に誤っていた、そう思わせるには十分過ぎるほどの戦いぶり。


Eランク冒険者達の中で、唯一目が死んでいなかったのはグランのみであった。


(いつか……絶対に自分もソウスケさん達に追いついてみせる!!!)


グランだけはアーガスと違い、心の中で闘志を燃やしていた。


グランとは違い、完全に気持ちが沈んでいるアーガス達にレアレスが声を掛ける。


「お前ら、目を背けずにあの戦いを見続けろ。才能という埋められない差は確かにあるかもしれない……だが、それでもあそこまで戦えてるのは今までの戦闘経験があったからこそだ」


レアレスの言葉に間違いは無く、ダンジョンに潜れば一般的な冒険者とは比べ物にならないペースでモンスターと戦い続けているソウスケ。

そんなソウスケと比べれば、世の中全てのEランク冒険者が経験不足と言える。


「俺はあいつの生まれやどういった人生を送って来たのかは知らないが、それだけは断言出来る。体験してきた経験の密度だけで言えば俺達より上だろう。だからこそ、あそこまでハイレベルな戦いが出来るんだ」


同じランクだからと言って、同じ人生を送ってきたわけでも生まれが一緒という訳でも無い。

だからこそ、同じランク帯であっても大きな差が生まれる事は何も不思議な事では無いと、レアレスはアーガス達に伝える。


「ソウスケ達をライバル視することが悪いとは言わない。だが、自分達の目標を忘れるな。そこを見失えばズルズルと落ちていくだけだ」


レアレスの言葉は正しい。何のために冒険者となったか、そこが冒険者にとって原点と言える目標だ。

途中に出来る目標は悪い訳では無い、だがそれでも途中の目標に集中するあまり、原点を忘れてしまってはいずれ大きな物を失ってしまう。


特にレアレス達から見てアーガスが一番危ない状況だ。


今直ぐに納得することは出来ないかもしれない。

しかしいずれ解って欲しい。原点を忘れないという事は冒険者として、人として大切な生きる理由という事を。


「自分と同期にああいった規格外がいるのは確かに運が悪い。しかしソウスケ達はお前達を敵視したり見下して馬鹿にしている訳では無いだろう。なら、必要以上にあいつらに意識をするな。ソウスケ達はソウスケ達、お前達はお前達。お前達が進む道を信じて進むんだ」


よそはよそ、うちはうち。そんな母親が子供の我儘を説き伏せる様な言葉にアーガス達は妙に納得してしまった。

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