四百十二話 お互いの最強を
ザハークとゴブリンプログラップラーの戦いは長く続いた。
といっても、精々数分程度。
しかし解る者ならばその数分がどれ程濃い時間なのか理解出来る。
ただ……その濃い時間もそろそろ終幕を迎えようとしていた。
元はただのゴブリンであり、そこからゴブリンプログラップラーへと進化した。
それは大した偉業だと言える。多くのモンスターを倒し、強者へと成り上がった。
そんなゴブリンプログラップラーが弱い訳が無い。
しかしながら、今回の相手は元がゴブリンの希少種であり、現在はオーガの希少種。
ゴブリンがゴブリンプログラップラーへと成長したことも進化と言えるが、ザハークの場合は存在そのものが進化した。
故に分が悪い。
お互いに全力で右ストレートを放ち、拳が激突する。
ゴブリンプログラップラーは有している強化系スキルを使用し、体術スキルを会得する事で覚えられる技、正拳突きを使用した。
それに対し、身体強化を使用したザハークは同じように正拳突きを使って拳を放つ。
ぶつかる二つの拳。
その衝撃波により鈍い音が広がり木々を揺らす。
二つの正拳突きがぶつかり合った結果・・・・・・ゴブリンプログラップラーの拳が砕けた。
骨も肉も砕けた。その激痛がゴブリンプログラップラーを襲う。
「グ、ギ、ギャッ!!!???」
「良い拳だった。楽しい時間だったぞ、ゴブリンプログラップラー……終わりだ」
引っ込めた左拳で突きを放ち、胸部を砕く。
身体強化を使用したままの拳、それに対して身体強化系のスキルは未だに使用されているが、それでも受ける準備が出来ていなかった為に、ザハークの拳はそのままゴブリンプログラップラーの胸部を貫いた。
「……今更だが、魔石は大丈夫だっただろうか? 殴った感触では砕けていないと思うが……まっ、砕けていても仕方が無いだろう」
基本的に使い道が無い素材の中で魔石だけは使える。
なのでソウスケとしては魔石は無事な方が有難いと思っているが……今回は仕方ないだろうとザハークは決めた。
SIDE ミレアナ
「さて……あまり時間を掛けずに終わらせましょう。私はあなた達との戦いを楽しむ趣味は無いので」
相手がゴブリンという事もあって本能的に忌避感を感じるミレアナは今自身が放つ事が出来る最強の一撃を放つ事に決めた。
流石に無詠唱で放つ事は出来ず、詠唱に入る。
ゴブリンウィザードはその隙に詠唱の短い攻撃でミレアナを攻撃……するようなことは無かった。
そもそもゴブリンウィザードは初級の魔法ならば詠唱無しで放つことが出来る。
無詠唱が出来る故、ミレアナの技量を察することが出来た。
強い、魔法の腕は自分と変わらない、もしくは上。
それに装備からして接近戦も出来る。そんな相手がわざわざ詠唱を始めた。
それは好都合と考えたゴブリンウィザードは即座に詠唱を開始する。
そして二人の詠唱はほぼ同時に終わった。
「テンペストドラゴンファング」
「グギャギャギャッ!!!!」
ミレアナが放ったテンペストドラゴンファング、風雷のドラゴンが巨大な咢を開いて敵を食い千切る。
ゴブリンウィザードが放った魔法はウォータードラゴンスパイラル、水のドラゴンがその頭を回転させながら強敵に大きな風穴がを空ける。
両者が放った技は使用者がそう多く無い技であり、その威力を名にドラゴンが入るに相応しい威力……なので、ザハークとゴブリンプログラップラーの拳がぶつかり合った時以上の衝撃が周囲に響き渡る。
「……正直、嘗めていました。Bランクとは言えたかがゴブリン、世の女性の為にザハークの様な稀な例を除いて滅ぼすべき存在だと。しかし、お前の力が人々にとって脅威であることに変わりは無い」
水魔法のスキルレベルが六は無ければ放てないウォータドラゴンスパイラル。
ミレアナがいなければその一撃だけでレアレス達を含む冒険者達を死体に変えることが出来る。
(本当に驚きです。何故ゴブリンがここまで成長したのか、そしてそこまで上等な杖を手にしているのか……ゴブリンなりの苦労があったのでしょうが、今日死んでもらいます)
精霊の力も借りて一気に力が増した風雷竜は水龍を食い千切り、そのままゴブリンウィザードをも食い千切た。
そこまでは良かった、だが……風雷竜はそのまま木々へとツッコミ、数十の木々を食い千切ってようやく消えた。
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