四百十一話 その戦いだからこそ、得られる高揚感
「さぁ、お前の相手はこの俺だ。頼むから……そう簡単に壊れてくれるなよ」
「グギギィ……グギャッ!!!!」
オーガの希少種対ゴブリンプログラップラー。
体格は殆ど変わらない。いや、ゴブリンプログラップラーの方がやや大きいだろう。
筋肉の大きさもゴブリンプログラップラーの方が勝っている。
三体の中で一番好戦的な性格をしているが、標的を見つけた時に直ぐ襲い掛かることはしなかった。
いいや、出来なかったと言うべきだろう。
ゴブリンプログラップラーへと進化するまで様々なモンスターを見てきた。
しかしその中でも目の前のオーガ、ザハークは一番の強敵であった。
戦友とも呼べる存在であるゴブリンパラディンよりも格上の存在かもしれない。
そんな存在に自分が勝てるのか?
答えは決まっているかもしれないが、それでもゴブリンプログラップラーは逃げ出すつもりなどさらさら無かった。
というよりも、逃げ出せないという方が正しい。
ザハークが見た目も雰囲気も強いのは勿論だが、ゴブリンとしての種を刺激するミレアナにも強烈なまでの実力を感じる。
そして一見三人の中では一番弱そうに見えるソウスケだが、三体は三人の中で一番不気味な存在に思えた。
見た目は確かに弱い。ただ、それでもミレアナとザハークと並んでいても違和感を感じさせない。
そんな存在達から逃げ出すのは不可能。
ならば、全身全霊、全力で戦う。
頭にそれしか残らなかったゴブリンプログラップラーは自分が持つ身体強化系のスキルを全て使い、ザハークに殴り掛かる。
「はっはっは、中々充実した闘志だな」
それに応えるようにザハークも拳を構えて前へと出る。
そしてお互いに拳を、脚を、肘を膝を使って相手にぶつける。
右ストレートを避け、鋭いジャブを腹へと放つ。
アッパーと見せかけて腹に蹴りをぶち込む。
ラッシュの中に肘打ちを混ぜる。
素人には到底終えるスピードでは無い速さで二人は戦う。
お互いに攻撃が完全に当たることは無い。ザハークの場合はゴブリンプログラップラーの攻撃が当たっとしてもそこまで大したダメージにはならない。
だが、ゴブリンプログラップラーにとってザハークの攻撃は下手すれば一撃で戦闘不能になる程の重さを秘めている。
ゴブリンプログラップラーも体術スキルの技を使えば強力な一撃を放つ事が出来る。
しかしそれは絶対にしない。
なぜなら、一回スキルによって習得できる技を使うと、技の使用後に僅かな硬直が生まれてしまう。
超一流の存在にもなればその硬直を消して流れを研ぎらせること無く動くことが出来るが、まだその域には到底達することが出来ないゴブリンプログラップラー。
ザハークが強い事は身に染みて解った。だが正確に技量が解かった訳では無い。
だが、もしかしたらこいつはそのタイミングを付いて攻撃を仕掛けてくるかもしれない。そう思わせるほどにザハークは強い。
なので一切動きを止めることなくラッシュラッシュラッシュ。
攻撃に防御と回避を止めることなく行い続ける。
そんなゴブリンプログラップラーにザハークは戦い最中、久しぶりに凶悪な……ではなく、楽しそうな笑みを浮かべていた。
(自身の経験不足を補うためにただただ全力で動き続ける。こうも自分を倒すという意識が切れない相手は良いな。模擬戦であればソウスケさんで事が足りるが、この満足感はソウスケさんとの模擬戦では得られない感覚だ)
本気の、生死を賭けた全力の戦いだからこそ得られる高揚感がある。
だが……それは永遠に続く訳では無い。
人にスタミナがあるように、モンスターにはスタミナはある。
人よりも圧倒的に多いが、それでも全力で動き続ける事に加えて何時攻撃が当たってしまうかというプレッシャーが延々と襲い掛かる。
そしてそれは魔力量も同じで、永遠にある訳では無い。
いずれ、そこが尽きてしまう。
そして……それは明確に戦いの終わりを告げるタイミングでもある。
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