四百四十話 とりあえず似合わない

全てのゴブリンを倒し終えた瞬間、安堵では無く更なる恐怖が襲い掛かって来た。


「な、あ、あぁあああ……な、なんなんだよ、あれ」


Eランク冒険者のうちの一人が恐怖のあまり地面に尻をつき、戦意喪失してしまう。

しかしそれは無理もなく、殆どの者達がもう自分達は助からないと本能的に思ってしまった。


「おい、おいおいおい、なんだよあれは」


現れた三体のゴブリンに対して恐怖こそ抱いていないが、それでも全く見た事が無い三体に驚きが隠せないソウスケ。


「二人共あんなゴブリン見た事あるか?」


「……一体はおそらくゴブリンウィザードだと思われます」


「ゴブリンウィザード、つまりゴブリンメイジより魔法に特化した存在って事か」


「そういう事になりますね」


ソウスケが鑑定で調べると、ミレアナの言った通り一体の名はゴブリンウィザード。

スキルを確認すると死体として転がっているゴブリンメイジと比べて優秀な魔法スキルを有している。


(ゴブリンメイジって確かEかDランクだよな。あれって絶対にBランクに近い実力だと思うんだが)


ソウスケの予想は正しく、ゴブリンウィザードはBランクに位置づけられるモンスター。

ただ、Bランクの枠組みの中でも実力が下の中といったところ。

しかしそれでもBランクのモンスターであることに変わりは無く、ソウスケ達三人を除く面子では到底立ち向かえない実力を持っている。


「……ザハーク、左のゴブリンはプログラップラーって奴らしいぞ」


「プログラップラー……つまりは接近戦が得意という事か?」


「そういう事だな。オーク程度ならあっさりと殺せそうだ」


三体の中でも一番大きく筋肉が発達しているゴブリンプログラップラー。

その体はオークに迫る程大きいが、オークの様にデブという訳では無い。


この個体もBランクであり、レアレス達が敵う可能性はゼロ。

殺すのに対して時間も掛からない程の力と速さを持つ。


「そして最後が……正直なんでだよって思うんだが、ゴブリン……パラディン。って名前だ」


「ぱ、パラディン……ですか? それは人族が優秀な騎士に与える聖騎士と言う名と同じでは」


「だろうな。でも、スキルに聖剣術まであるんだ。それにご丁寧に鎧を身に付けて長剣と盾まで持ってる。あれは完全に聖騎士と言えるスタイルだろ」


失礼かもしれないが、顔面だけを見れば全く聖騎士には見えない。

暗黒騎士の方がまだそう見えるかもしれない。


だが、ソウスケの鑑定結果通り、ゴブリンパラディンは限られた者のみが得られる聖剣術のスキルを有している。


(ゴブリンが聖騎士って……騎士ってだけでも色々とおかしいのに、聖騎士って……駄目だ、ちょっと笑ってしまう)


あまりにも合わない組み合わせにソウスケは必死に笑いを堪える。


「はぁ~~~~、マジで本当に似合って無いな。でも、俺らが戦う相手としては十分か。レアレスさん、アーガス達の事をお願いしま……あのアホが」


レアレス達、Dランク組にアーガス達の面倒を任せようと思い、声を掛けようとしたソウスケ。

だが、その前にまだまだルーキーの域を抜けていないアーガスがその場から声を上げて駆け出した。


「うおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」


身体強化のスキルを使用し、全速力で三体のゴブリンに突撃。

その無謀過ぎる突貫にレアレス達三人は絶対にアーガスは死ぬと思った。


それはグランも、他のEランクの冒険者達も同じ事を思った。


そしてソウスケ達ですからあいつは絶対に終わったと思っていたが……だが、元々ゴブリン達の標的がアーガスでは無かったからか、軽く蹴飛ばされるだけで終わった。


「グボぁッ!!!???」


しかし軽くとはいえ、Bランクのモンスターの蹴りを受けてEランクの冒険者が無事な訳が無く、アーガスは後方へ大きく吹き飛ばされ、木に背中が激突する。


そして吐しゃ物まき散らしながら転がる。


「運の良い奴だな。レアレスさん、ちょっと言い換える。もう一回ああいう馬鹿な事が起こらない様に見張っといてください」


「あ、あぁ。分かった。済まないが、頼む」


「任せてください。グランもお前も下がっていてくれ」


「……分かりました。気を付けてください」


「おう」


レアレス達の後退が終わると、ようやく三体のゴブリン達がソウスケ達に向かって歩みだした。


「そんじゃ、俺がパラディンでザハークがプログラップラー、ミレアナがウィザードで良いか?」


「あぁ、それで構わない」


「私もです」


こうして三体のゴブリンとソウスケ達の戦いが始まった。

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