四百三十三話 同じ攻撃であっても

「いやぁ~~~、メリルさんの技術には驚かされたよ。まさか水魔法にあんな技術があったなんて」


「ありがとうございます。ただ、あれは慣れによる技術なので遊び心があれば習得は可能ですよ」


ミレアナに水魔法の才能があるかないかで言えば、ある。

しかしそれは飛び抜けたものでは無く、才能という点で言えばザハークの方が上だ。


それでもザハークは他人の水、血液を操作するような真似は出来ない。


「遊び心ですか……帰ったら少し気持ちを楽にして試してみましょうか」


「シャリアがその技術を習得出来れば、解体は一気に楽になるな」


「そうですね。まぁ、そう簡単に習得できる技術ではありませんけどね」


真剣に技術を磨くのではなく、遊び心を持つ余裕さが必要だとミレアナは言った。

それはミレアナの感覚なので他人にその感覚が当てはまるかどうかは解らない。


だが、それでも冒険者なら誰もが欲しいと思える技術。

シャリアだけでは無く、今回の偵察隊に参加している冒険者の中で水魔法が使える者も習得したいと考えている。


野営の雰囲気としては悪くない雰囲気。

しかしソウスケは晩飯であるボアの肉を食べながら異変に気が付いた。


「……一体か?」


地面に落ちている小石を拾い、ある方向に向かって投げつける。


いきなりの投擲にアーガス達は何事かと皿を落としそうになり慌てる。


「グギャッ!?」


突然暗闇から聞こえた声。

しかしその声には全員聞き覚えがあった。


「見てくる」


「おう。ついでに他の奴らがいたら適当に潰してくれ」


「勿論だ」


既に夕食を食べ終えていたザハークが立ち上がり、ソウスケが投擲を当てたゴブリンの様子を見に行く。


「……良く解ったな。ゴブリンが俺達を観察しているのを」


「ずっとじゃ無いですけど、時々気配感知を使ってたんで。それで反応があったんで牽制しようと」


「そうか……魔力量は問題無いか?」


「はい。時々使ってるだけなんで問題無いですよ」


ソウスケの気配感知はレアレスが本気で鼻を使用した時と同等の察知力がある。

声が聞こえた場所からゴブリンが存在した大体の距離を把握したレアレスはその距離に表情にこそ出さないが驚いていた。


(ゴブリンの匂い、血の匂い等から考えて俺の鼻と同等の感知範囲か。時々しか使用していないから魔力は殆ど消費していない。それは分かるが、一瞬でそこまで感知できるとは。それに投擲でこうも正確に狙撃するとは……おそらく投擲のスキルレベルもかなりのものだろう)


力任せの投擲では無く、投擲のスキルレベルが上がることで得られるコントロール補正。

それが無ければ枝や木を突き抜ける音が聞こえる。


(木や枝の位置を正確に把握出来る質の高さ・・・・・・相当な実戦経験、冒険数が無ければ得られないだろう。さて、それに気付く同期がどれ程いるのか)


昼間と攻撃方法は同じ投擲ではあるが、その攻撃に必要な技術には大きな差があった。

それに対してはレアレス達は直ぐに解った。


だが、元々ソウスケに対して偏見があるアーガス達がそれに気づくかどうか。


「ふんッ、従魔一人だけに向かわせるとか、人使いは上手いんだな。ゴブリンが一体だけとは限らないのによ」


「アホか。そもそもザハークが自分から見に行くって言ったんだろ。それに……オーガであるザハークが群れていようがただのゴブリンに負ける訳無いだろ。常識で物事を考えろ」


ソウスケに対して嫌味を言ったつもりのアーガスだが、サラッと正論を返される。

その様子を見ていたレアレスはため息を吐き、二人の溝が深い事に悩む。


(やはり自分達とソウスケとの間にどれほどの差があるか解らないか。ギルドからはアーガスが一対一で勝負して完敗したと聞いたが……やはり本能的な部分で認められないのだろうか。ただ、そういうのを認められるのと認められないのでは今後に大きな差が出ると思うのだが……他人に言われて納得出来る内容ではないか)


一先ず今回の依頼で自分達がギルドから責められるるような問題が起こらないのを祈るレアレスだった。

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