四百三十二話 見せ場を取られてしまう

「……役立つスキルだとは解っていたが、お前が使うと完全な凶器になるのだな」


「別にそんな物騒なものじゃないですよ。なぁ、グラン」


「えっと……そ、そうですね。でも、一撃で倒してしまったんですし、十分な武器だと思います」


目的地に向かう道中、偵察隊に向かって襲ってきたファットボアに対して、ソウスケは手に持っていた石を投擲。


スキルによる威力の上昇やソウスケの腕力も加わって見事脳天を貫いた。

その瞬殺劇にミレアナ、ザハーク、グランは大して驚いていないが、その他のメンバーはレアレス達も含めて驚きを隠せないでいた。


「レアレスさん、こいつを今日の晩飯にでもどうですか?」


「むっ、それは確かに良い案だ。ただ、まだ明るいから日が沈むまでもう少し距離を縮めておきたい。それを考えるとな」


「それならこいつを持ち歩き流れ血抜きを行えば大丈夫ですよね」


ソウスケはミレアナに目で合図を送り、その意図を読み取ったミレアナは血がだらだらと流れている部分に干渉し、更に血が流れる速度を上げる。


そしてソウスケはファットボアに死体を持ち上げて目的地に向かって再び歩き出す。


「これは凄いですね。血も確かに液体ではあるので水魔法を使えるのなら干渉出来るのかもしれませんが……そのあたりはどうなんですかシャリア?」


「絶対に無理という訳ではありません。ただ、相当高いレベルで水の魔力の扱いに慣れていないと無理な芸当です」


シャリアの言う事は正しく、ミレアナの技術が出来る人物は他にも存在する。

ただし、戦闘中の様に激しく動く場面では上手く扱うことが出来ない。


そしてソウスケはファットボアを抱えながら苦も無く歩き続ける。

偵察隊の中には今晩の夕食が用意していたあまり腹が膨れない食事では無く、ガッツリ肉を食べられることを喜んでいる者が多かった。


しかし中には先程のファットボアを相手に戦い、レアレス達に好印象を与えようと考えていた者もいた。

昇格試験を受けるには、ギルドが提示した基準を満たす必要があるのだが、それ以外にも他の冒険者の推薦によって早い段階で試験を受けられる場合もある。


ランクが上がれば受けられる依頼の内容も変わり、報酬額も上がる。

すなわち生活の質が上がる。


速く今の現状から成り上がりたいアーガス達にとってはソウスケの投擲は邪魔な行為だった。


(ちっ、あの野郎……俺達の見せ場を奪いやがって)


ただ、それでもここでソウスケに噛みつかなかったのは、レアレス達の自分達に対する印象を悪くしたくなかったからだ。


それでもソウスケに対して苛立つ感情が無くなるわけではない。

しかし……問題無く歩行スピードを変えないソウスケを見て、自分とは明らかにレベルが違うという事だけは解って来た。


自分達より何倍もの巨体を持つファットボアを軽々と持ちながら歩き続ける。


(寄生虫でヒモ野郎が、そんなに楽してレベルを上げて楽しいかよ)


仮にそれが事実だとしても、ソウスケはそれを楽しいと感じてしまうだろう。

まずはこの世界で生き残るためにレベルを上げるのは必須。戦闘の技術は後から追いつけばいい。


完全なゼロか必死で上に上にと登ろうとしているアーガス達からすればソウスケは嫉妬の対象でしかない。

それはソウスケも理解しているが、別に赤の他人からそんな風に思われても自分の生活には影響しないので気にすることは無い。


そして野営を行う場所に着いたソウスケ達が既に血抜きが終わったファットボアの解体を始め、夕食は一般的な野営時とは思えない程に豪華なものとなった。

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