四百二十九話 優しさが過ぎるのでは?

「そんな事があったのか。若い奴ほどソウスケさんの実力の気付かないものだな」


「まぁ、基本的にはそうだろうな。……というか、ザハークはあんまり怒って無いんだな」


少し前に似たような件が起こり、その際にはミレアナとザハークがソウスケを馬鹿にした冒険者をしばき倒した。


今回の件でザハークがアーガスたちに対して怒りを感じていない事に不満を持っている訳では無い。

しかし前回その様な事があったので、何故今回は怒りを抱いていないのか不思議に感じた。


「多少の怒りは感じているぞ。ただのガキ共が調子に乗るなと思うが、まだ冒険者になって数年程度かそれ以下の連中なのだろう? それを考えればその視る目の無さも当然かと思えてな」


「なるほど、確かにそういう見方も出来ますね。ソウスケさんが馬鹿にされるのは正直我慢なりませんが、そういう考えならば先程よりも怒気を抑えられそうですね」


「そうだな。というか、まだまだ一般的に修羅場と言える様な戦いを体験していないのだろう。それならばソウスケさんの実力が見抜けないのは当たり前だろう」


ザハークの言う通りソウスケ実力を見抜けるものなど低ランクの冒険者には基本的にいない。

本能的にそういう差を察知出来るものでも、上手く言葉に表せないだろう。


「それなに必死に自分の方が上なのだと虚勢を張ろうとする……そう考えると、哀れに思える。ソウスケさんはどう思う?」


「えっ、俺? えっと・・・・・・まぁ、俺としては実力が足りない奴が頑張ってその美しようとしてるんだなぁ~~って思える、かな。もちろん多少のイライラ感はあるけどな」


「なるほど、二人の様な考えを持って余裕を保つのも重要ということですね」


ザハークとソウスケの低ランクの冒険者がソウスケに向ける態度に対する考え方にミレアナは納得がいき、なるほどと思った。


(確かに戦闘経験が大して無い子供に実際にソウスケさんと戦ってもいないのにその実力に気付けという方が無理な話ですね。それに子供は大人と比べて態度や言葉に含まれる悪意は大したことはありませんし……今後はもう少し余裕のある態度を取った方が良さそうですね)


ソウスケに迷惑を掛けてはならない。しかしソウスケに嘗めた態度を取るような、見下す様な連中は容赦なく潰したい。


ただ、相手が悪ければ後々厄介な問題が起こるかもしれない。

それならば見方を変えれば良い。


ザハークやソウスケと同じく相手に対して怒気が消える訳では無いが、ある程度気持ちは軽くなる。


「それにしても、折れた長剣の代わりに未使用の長剣をタダで渡すとは、随分と優しく対応したのだな。なにか見返りでもありそうだったのか?」


「いいや、別にグランみたいに見込みのある奴って感じでは無かった。現時点ではな」


今はどこにでもいそうなルーキーであっても、アーガスが今後どの様な成長を、進化をするかなどソウスケは予想出来ない。


「ただ、単純にランクが俺と一緒。ってことは、基本的に日々の生活に対して余裕は無いだろ。だからくれてやったんだよ」


「それも鞘付きでです。優しさが悪いとは思いませんが、私としてはあそこまで優しく対応する必要は無いと思いました。ソウスケさんから一対一の決闘求めたのならまだしも、相手が挑んで来た戦いなのですから」


「……俺もミレアナにやや賛成だな。今のところ恩を売ったところで何かが返ってきそうでも無いのだろ? それならそこまで優しさを与えなくても良いと思うぞ」


「は、はっはっは。結構厳しいな二人共」


二人としては心の余裕の持ち方を少し覚えたが、それでも未使用の長剣を渡すのは優しさが過ぎるのではと感じる。

ザハークとミレアナの立場を考えればソウスケに対して敵対するような態度を取るアーガスは好ましくない相手。


それはソウスケも分かっているが、自分と同じような歳の子が日本で生活していた時の自分と比べ物にならない程苦労していると思うと、多少の優しさを与えても良いのではと思ってしまう。


「まっ、冒険者嘗められたら終わりだって後輩に教える冒険者もいるくらいだ。同年代、同ランク帯の奴をライバル視するのは当たり前の事だろ。俺の場合は他に内容がてんこ盛りだろうけど」


馬鹿にされればイライラはする。それでも子供相手にはある程度寛容になってきたソウスケだった。

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