四百三十話 それはお前の願望だろ

偵察当日の朝、ソウスケは宿の店主に昼食を作ってもらい、集合場所へと向かった。


「丁度良い出発時間ですね」


「そうなのか? 少し早い気がするが」


「こういった時は念の為本来の到着時間よりも早く着いた方が良いんですよ」


時間通りに着けば問題無いのではと思うザハークだが、人付き合いなども含めて早く着くことに越したことは無いのだとミレアナは説明する。


「ですよね、ソウスケさん」


「そうだな。まぁ……基本的に無いとは思うけど、イレギュラーが起きて時間に遅刻する可能性があるかもしれない。そういった事を考えれば早く着くことは良いことだ。だからといって、早く着きすぎるのも良くは無いかもしれないけど」


「そういうものか……面倒だな」


人の言葉を話すことは出来るが、まだ人同士のそういったお約束には疎いザハークにとって、約束の時間など遅れなければいつ着いても変わらないだろ、というのが本音だった。


しかし特に眠気があるわけでは無く、気怠さも無いので文句は無い。


「ところでソウスケさん、イレギュラーが起きていたら……俺達で潰さないのか?」


「クイーンメタルスパイダーの時みたいにか? ん~~~・・・・・・別にそれが悪いとは思わないけど、今回俺達は偵察隊として現場に行くわけだ。だからあんまり勝手な事はしない方が良いと思うんだよ。それに、相手は上位種になっていたとしてもゴブリンだ」


「あまり倒しても旨味の無い相手ですからね。ザハークの様な個体は本当に稀でしょうから、おそらく今回の群れにはいないでしょう。というかいたら普通に驚きます」


「ミレアナの言う通りだな。とりあえず、今回は大人しくしておくよ。討伐隊の仕事を奪うのも良くない」


折角得られた仕事を奪うのは良く無いだろうと切実に思うソウスケ。

討伐隊に参加する冒険者はDランクとCランクの冒険者で編成されていると聞いているが、その中に金欠の冒険者がいないとも限らない。


金に関しては基本的に困ることが無くなった自分達と違う者達がいる。

今回は討伐対象の素材に旨味が無いということもあって、たとえ上位種がいたとしても討伐する気にはならない。


(ジェネラル程度なら放っておいても大丈夫かもしれないが、それ以上の個体がいるなら・・・・・・俺達で討伐した方が良いかもしれないけど)


ゴブリンジェネラルのランクはC。

それだけでも普通に手強い相手ではあるのだが、ランクDやCの冒険者達ならばそこまで問題無く倒すことが出来る。


しかしそれ以上の存在になれば、ランクはB。

いくら最弱種と呼ばれているゴブリンであっても、ランクBまで進化した存在の強さは伊達では無い。


ソウスケは現在街に滞在する冒険者達を全て知っている訳では無いが、それでもBランクのモンスターを相手にして被害を抑えて討伐出来る冒険者はそう多く無いと思っている。


「何か不安そうな顔してますね。今回の偵察で気になる事でもありますか?」


「いや、別にそういう訳じゃ無い。何もイレギュラーが起きなければ良いなと思っただけだ」


「俺としてはイレギュラーが起きて欲しいがな」


「おいおい、あんまり不吉な事を言うなよ」


依頼的にはあまり想定外なイレギュラーは起きて欲しく無い。

それはレアレス達も願っていることだ。


ただ、ザハークが考えていたことは至極当然の内容だった。


「ダンジョン内程では無いにしろ、冒険中にイレギュラーは付きもの……なんだろ? それなら俺達が動かなければならない事態になってもおかしく無いだろ」


「・・・・・・ははっ、確かにそうだな。でもザハーク、それはお前が思いっきり戦える相手が欲しいからって願望が入ってるんじゃないか?」


「バレたか」


「バレバレだ」


「バレバレですね」


これから望む依頼に特に気負う事無く三人は集合場所に到着した。

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