四百二十八話 ヒモだとしてもある程度強い
「絶対にぶっ潰す!!!!」
「それは困るなぁ……まぁ、無理だとは思うけど」
身体強化のスキルにプラスで腕力強化のスキルを発動したアーガスは先程と同じく一直線にソウスケに斬りかかる。
(……スピードはさっきより速い。長剣の振りも速くなってる)
当たり前の事だが、強化系のスキルを使った事で素の状態よりも速さや腕力が強化されているアーガス。
しかしソウスケからすればグランの方が速く力があるように思えた。
事実、同じく強化系のスキルを使用したグランの方が速度も腕力も上。
(これは……完全にあれだな。モンスターを倒すのに慣れている攻撃だ。人を倒すには少しお大雑把過ぎる)
ただ速く、力を込めて体のどこかを斬れればそれで良い。
その様な考えによって迫る攻撃など、ソウスケからすれば容易に剣筋が読める。
「お前、は! 本当に逃げ回るな!! それしか、能が無いの、かッ!!!!!」
「そういうのは俺の一太刀ぐらい浴びせてから言えよ。そういうお前こそ、ただ避けている俺に全く攻撃を当てられてないじゃないか。せっかく身体強化と……腕力強化まで使ってるのにその程度か?」
ソウスケはただ避けているだけでは無く、その場から半径一メートルも動かず全ての攻撃を避けきっている。
その光景を外野で見守っている同じEランク冒険者達は徐々に気付き始めていた。
そしてその時、ようやく自分達がどれだけソウスケの実力を読めていなかったのか自覚し始める。
ただ、アーガスのパーティーメンバーである冒険者には焦りの表情が浮かんでいた。
「……おいおい、もしかしてもうガス欠か?」
「うる、せぇ!!! まだまだ、やれるに決まってんだろ!!!」
虚勢を張るアーガスだが、汗は大量に流れており、なにより徐々にスピードが落ちてきている。
剣士タイプであるアーガスの魔力量は大して多くない。
Eランクでは収入的に魔力量の低さを補える魔道具を買えるわけも無く、身体強化を腕力強化を同時に使えば二分程度でガス欠になってしまう。
パーティーメンバーの嫌な予感は当たってしまい、攻撃がソウスケに命中する前にアーガスのガス欠が先に来てしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……く、そが!!!!!!」
「なぁ、流石にもう止めにしないか。いくら俺に攻撃しても当たらないって事ぐらい解っただろ。まだ昼頃とはいえ、そんなに動いたら明日の偵察に響くかもしれないしさ」
「だま、れ! お前みたいな、ヒモ野郎に負けて、たまるか!!!」
「だからヒモ野郎じゃ無いって言ってるじゃん」
アーガスからすれば冒険者になって一年も経っていないのにも関わらず、呼吸を忘れてしまう程美しいエルフの美女を仲間にして、普通のオーガではないモンスターを従魔にしている事が妬ましい。
装備が充実しているのも羨ましくて、苦労していない様子に見ていてドス黒い感情が湧き出て止まらない。
だが、確かに冒険者に一年目にしては楽しく充実した生活を送っている様に見えてもおかしく無いソウスケだが、この一年で戦ったモンスター等を考えればそうとも言えない。
「・・・・・・もうさ、十分に気は済んだでしょ」
これ以上付き合う義理は無いと感じたソウスケはアーガスの上からの斬撃に合わせて横から魔力を纏った木剣を叩きつけ、その刃を折った。
「はっ!? な、なんで……ッ!!!???」
「これで終わりだ。それと、折れた理由は俺が木剣に魔力を纏ったからだ」
自身の長剣が折れた事に驚きを隠せなかったアーガス。
しかしその隙をソウスケに突かれて喉元に剣先突きつけられ……完全に決着の形のなった。
「……ッ、クソが!!!!」
「・・・・・・あのさ、お前らが俺をヒモと思ってるなら実力が偽物でもレベルはそうで無いって事ぐらい解れよ」
人の戦闘スタイルや才能によってレベルが上がるごとに強くなる能力は変わるが、それでもアーガスとソウスケのレベル差を考えれば万が一は確実に起こらない。
「ほら、折れた剣の代わりにこれを使えよ。明日の偵察に武器無しで挑むのは準備不足過ぎる」
低ランクの冒険者が基本的に余裕がない事は知っているのソウスケは自分が折ってしまった長剣の代わりとして、鞘付きの長剣を収納袋から出してアーガスに渡した。
「それじゃ、明日は宜しくな」
勝負を完全に終えたソウスケはミレアナとギルドから出てザハークと合流した。
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