四百八話 冒険前とその後の違和感
「くれぐれも無くさない様にお願いします」
「はい、無くさない様に気を付けます」
通りで商品を販売する許可証を商人ギルドの職員から貰い、多くの商人達が店を構える通りに向かう。
「今日は一日雨が降ら無さそうで助かったよ」
商品である武器はキッチリと整備しており、武器を詰める樽を幾つも用意している。
汚れても良い質の絨毯もあるので、殆ど問題は無いのだがソウスケは屋根を用意していなかった。
今日の天気は晴れであり、昼から夕方にかけて多少は暑くなる。
今朝になってそれに気付いたソウスケだが、時間が無い。
それをミレアナに相談すると、精霊に頼めば今日程度の暑さはどうにでもなると言われた。
(便利だな、精霊魔法って)
ただ、流石にタダで働いてくれる訳ではなく、何かしらの代償が必要となる。
基本的には魔力で構わないのだが、精霊の中には食事好きな者もいるのでお菓子や料理などをあげる事で力を貸してくれることもある。
(まぁ、今回は数人に風を送って涼しくしてくれって内容だろうからお菓子とかで済むって話だろうけど、戦闘時に関しては魔力じゃ無いと駄目なんだろうな)
ソウスケの考えは基本的に正しい。正しいのだが、実力の高い精霊の場合は食い意地の方が勝ってしまい、自身の糧となる魔力では無く美味しい食べ物を選ぶ精霊も存在する。
丁度良い場所を見つけ、お隣の商人に挨拶を済ませてからものの五分程度で商売の準備を終える。
「……お兄さん、アイテムボックスのスキルを持ってるなんて羨ましい限りだね。でも……本業は冒険者なんだろう」
「はい、訳あって商人ギルドにも所属してます。今日はダンジョンとかで手に入れた武器を売ってしまうと思って」
「なるほどね。確かに良い収入にはあるね。ただ、ちょっとだけ聞きたいんだけど、ダンジョン以外でどうやって武器を手に入れたんだい」
商人の女性は気になっていた。
女性は元冒険者では無いが、料理を売っているのでよく冒険者の客と接する機会がある。
そんな中で、冒険者が冒険に向かう前と冒険終わりに寄って来る時を比べると、匂いに大きな差がある。
単に汗臭いとかそういう話では無く、もっと根本的な違いがある。
「自分とこっちの鬼人に見える自分の従魔であるオーガのザハークは鍛冶のスキルを持ってるんですよ。なので二人で少し前に大量に武器を造りました。後はあれですね、盗賊のアジトを壊滅させた時に得たお宝ですね」
(盗賊のアジトを……なるほね。だから普通の武器とは違う違和感があるわけね。というか、冒険者なのに鍛冶も出来るなんてとんでもなく多才ね)
ソウスケの見た目から予想出来る年齢を考えれば、あまりにも品物の質が高い。
長年商人として働いている女性はある程度の物に対して目利きが出来る。
ソウスケ達が並べた商品の質は幅広い。
しかしソウスケとザハークが造った品物からはそれらしい存在感が溢れていると、女性は直ぐに解った。
(それに後ろの武器の量を考えると……三人で盗賊団を潰したって事よね)
「まだ冒険者になってそこまで経っていないでしょうに、随分と強いのね」
「多少の実力はありますけど、強い仲間がいるからそ安心して戦えてるんですよ」
女性に自分の実力がバレているかもしれない。
だがそれでもソウスケは自分の口からは真実を出さなかった。
そして通りを歩く人達が徐々に多くなり、そこには冒険者の姿も多い。
露店で武器を売っている商人は少ないが、それでもそこまで珍しいという訳では無い。
ただ、それでも店を構えるの店主が少年で、後ろに手伝いとして立つのが恐ろしく整った容姿とスタイルを持つエルフと、見た目は鬼人に近いのだが冒険者ならその違和感に気付くであろう風貌のオーガ。
初めてみる店であっても、自然と人は集まってくる。
「えっと……坊主がここの店主なのか?」
「そうですよ。一応俺がパーティーのリーダーなんで店主って事になりますね」
目の前の少年が冒険者パーティーのリーダーという事実を知った男性の冒険者はミレアナとザハークを見た後に、もう一度ソウスケの顔を見た。
「ま、マジなのか」
「はい、マジですよ。それで、何かお買いになりますか?」
「そ、そうだなぁ……てか、一つ聞きたいんだが本当にこの値段で良いのか?」
男は冒険者として活動を始めてからある程度の経験が経っているので、武器良し悪しもある程度解かる。
(店で買えばこの値段の倍……とまではいかないが、それでもこの値段より高いのは確実だ)
ソウスケは多くの武器屋を回ってランクに応じた武器の適性値段を確認しており、その値段よりも半額より多少高い値段で武器を売っている。
「色々とあってそこまで集めるのに費用は掛かっていないんですよ。安心してください、盗品ではありませんから」
「そりゃ後ろの二人の実力を考えるから分かるけどよぉ」
「後、僕と後ろのザハークは鍛冶のスキルを持ってるんですよ。因みにこの樽の中に入ってる武器や、お客さんから見て左側に見えるのが僕達が造った武器です」
「・・・・・・はっはっは、坊主の出身は分らんが腕は確かみたいだな。んじゃ、この槍を貰おうか」
「毎度、銀貨五枚です」
Dランクの冒険者でも普通に使えそうな槍を銀貨五枚で売却。
槍特徴は頑丈さと使い手の腕力上昇。
男にとって銀貨五枚は破格の値段であった。
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