四百九話 完売

朝から太陽が落ちかける夕方までの間、ソウスケ達は延々と武器を売り続けた。

盗賊から奪った武器や、ダンジョンで手に入れた武器に、ソウスケとザハークが造った武器。

合計で三百程あった武器は殆ど売れてしまった。


ダンジョンの上層の宝箱から手に入れた武器や、盗賊達が使っていたかもしくは貯め込んでいた武器等はあまり品質が良い物は多くない。

しかし、まだ冒険者になったばかりのルーキーにとっては良心的な価格であり、ベテランの冒険者にとっては使い捨ての武器として丁度良かった。


そして少しランクの高い武器はルーキーの枠から抜けた冒険者やベテラン達が買っていき、店主の立場であるソウスケは何度もこの価格で良いのかと確認される。


ソウスケにとって本業は冒険者なので、鉱石の採掘もモンスターの素材も自力で捕ってくることが出来る。

強いてお金が掛かる部分と言えば、精々鍛冶ギルドで鍛冶場を借りる料金程度。


なので、店で売られている武器の値段と比べて多少低くてもソウスケとしては完全に黒字でになる。


「……嬉しい事には嬉しいんだが、まさか売るように用意した武器が全て売れるとはな」


「商人としては嬉しい事でしょう。おっと、ソウスケさんの本業は冒険者でしたね」


「・・・・・・冒険者の事を全て把握している訳では無いが、ソウスケさんほど冒険以外に手を出している人は珍しいだろう」


冒険者の中で副業をしている者がいない訳では無いが、ソウスケの様に鍛冶と錬金術と木工で儲けている者はいない。


人が持つ才能は一つとは限らない。

それは当たり前の事だが、ソウスケ程マルチな才能を持つ者は殆どいないだろう。


(神様も気前が良いよな。転移された場所がダンジョンの中だったとはいえ上手いこと生き残れた訳だし)


朝のうちから武器を買ってくれた冒険者が他の同業者達に値段が安い割には質の良い武器が揃っている店があると広めたことで、多くの冒険者がソウスケの店を知ったという理由もあるが、ソウスケとザハークが造った武器も全て売れたのは二人の努力と才による結果と言える。


「それで、今後もこういった事をやられるんですか?」


「う~~~ん……まっ、気が向いたらだな」


自分が造った武器を客が嬉しそうな表情で買っていってくれるのは嬉しいと感じる。

職人冥利に尽きるという感覚だろう。


しかし自分の本業は冒険者だと自覚しているソウスケは頻繁に自分の武器を売るつもりは無い。


(あんまり今日と同じような事やってたらマジで鍛冶で食ってる人達によく思われないのは確実。別に武器を売ってる人達や鍛冶師の人達と喧嘩したい訳じゃ無いからな。普通に客として武器屋に行くことだってあるんだし)


「んじゃ、今日の売り上げで美味い飯でも食べに行こうぜ」


合計で金貨百枚以上は確実に売れたソウスケは遠慮無く、街で一番美味いと言われている料理店で夕食を食べた。

そして翌日、朝食を食べ終えたソウスケ達は直ぐに街から出発し、モバールへと向かう。


「……こいつら、本当に見境が無いな」


「ゴブリンジェネラルもいたようですし、もしかしたら無理矢理だったのでは? どちらにしても興味はありませんが」


「ミレアナの言う通り、上からの指示だろうな。俺は元から少し特別だったが、同族だったこいつらも馬鹿だが危機察知能力がゼロという訳では無い。一番馬鹿だったのはこの頭だろうから、ただのゴブリン達には少し同情する」


モバールに向かう途中に、今度は盗賊では無くモンスターに襲われたソウスケ達だが、モンスターはCランクのゴブリンジェネラルをトップとした集団。


数は三十を超えており、魔法を使う個体もいたので厄介な集団ではあるが、集団を潰すことに慣れているソウスケ達からすれば苦に感じる相手ではなかった。


「一応魔石だけは回収しておくぞ」


「分かりました」


「了解」


ソウスケにとって魔石は大事な商売道具なので、魔石だけはキッチリと回収する。


「ソウスケさん、こいつらが持っていた武器はどうしますか?」


「・・・・・・今回はいいや」


特に良質な武器を持っていた訳では無いので、ゴブリン達の武器をスルーしてソウスケ達は再びモバールへ足を進める。

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