三百九十話 良いお知らせ

ソウスケが造った特製のチェス。これが現在滞在している街にやって来た理由の一つ。

それをトーラスに届けなければならないのだが、思っていたよりも鍛冶にハマってしまったソウスケ。

勿論ザハークも鍛冶にハマってしまっている。


なのでおそらく帰るのが予定の時期より遅くなるだろうと判断したソウスケは大切な商品であるチェスを郵送でトーラスの元へと送った。


「そいつは使いやすいか、ミレアナ」


「はい。とても使いやすい短剣かと。副次的な効果も強いですし、絡めてとしては超有能だと思います!!」


ソウスケがスペツナズ・ナイフから発想を受けて造った短剣は使用者の技量をそこまで重視しない短剣なので、ある程度短剣を扱える者からすれば是非欲しい一品。


「そりゃ俺が考えた能力は虚を付くのに特化してるからな。ザハークが思いついてくれた効果も虚を突く系だし。ただ……あれはヤバかったな」


「そうだな。あれはヤバかったと思う」


スペツナズ・ナイフの大剣版を造り、ザハークが試運転を行った。

そして突きと同時にスイッチを押した結果、たまたま遭遇したオーガの胴体を容易に貫き、奥の壁に深々と突き刺さった。


その場所だけ見れば何が起こったのか直ぐには解らない異様な現場になってしまうので、二人は柄から飛ばした大剣の刃は一応回収した。


「確かに強力で良い攻撃だと思うが、大剣ぐらい刃が大きかったらちょっと邪魔になるよな」


「やっぱ形状的には短剣が一番良いだろう。それか槍なら刃の部分は大きくないから使いやすいんじゃないか?」


「それだ。というか、スペツナズ・ナイフに今回造ったナイフの要素を合わせれば……全部は無理か」


刃を飛ばすという行為は確かに虚を突くが、そこで仕留められなければ自身が大ダメージを食らう可能性だってある。


そこをカバー出来ないかとソウスケは考え、一つの案が浮かんだ。


(というか、片方の能力なら既に魔道具として存在してそうだな。でも俺が考えている武器の方が虚を突くのには特化してる筈だ)


「また、何か良いアイデアでも浮かんだのか?」


「良いアイデアと言うか、単に発展させただけだ」


ソウスケとしては特に苦も無い作業だが、一般的な錬金術師はアイデアが浮かんだとしても簡単に実践しようと思わない。


理由は単純で、作業に使う素材や魔石に鉱石、薬草等が自らの力では手に入らないからだ。


「ところでソウスケさん、ギルドで面白い話を聞きましたよ」


「面白い話、か……どんな話だ」


「最近、鉱山の中でメタルスパイダー多く発見されているらしいです」


Dランクモンスターである鋼鉄の体を持つ蜘蛛のモンスター。

吐き出す糸は粘着性より切断性の方が高い。

しかし他の蜘蛛系モンスターと比べて脚は速くないので糸と足に注意すれば問題無し。


「それで、結構被害に合っている冒険者や採掘者が多いって事か?」


「ランクDのモンスターですからね。それもあります。ただ、もしかしたら母親がいるんじゃないかってギルドで噂になってます」


「母親って事はクイーンメタルスパイダー? がいるって事か」


クイーンやキング。その名を持つモンスターは最低でもBランクの実力を持つモンスターが殆ど。

ランクB以上のモンスターを倒せるか否か、そこが冒険者としての評価を一線するラインとも言える。


「噂が正しければ鉱山内のどこかにいるかと」


「……レインボータートルとは全く別の位置にいると考えた方が良さそうだな」


レインボータートルもクイーンメタルスパイダーと同じBランクオーバーのモンスターであり、両者が戦えばお互いに大きな傷を負う事は否めない。


だが、防御力では完全にレインボータートルの方が上なのでクイーンメタルスパイダーがよっぽど馬鹿でない限り、自ら子供達を引き連れて倒しに行くことは無い。


「素材や魔石としては申し分ないと思いますが」


「そりゃそうだな。ん~~~……とりあえず鍛冶は一旦中止だな。ザハークはどうする?」


「俺も付いて行こう。試し切りばかりでしっかりと体は動かしていなかったからな」


ブリザードリザードの時と同様に強敵と戦えるかもしれないという事で、ザハークの目はクイーンメタルスパイダーに遭遇する前から戦意が溢れ出していた。

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